梗 概
黙って写真を送る会
『黙って写真を送る会』は、ある大学のカメラ部にいつからか伝わるLINEのグループチャット。グループ参加の条件は一つ。文章を書き込まないこと。写真以外の投稿をした場合、問答無用でキックされる。誰が運営しているのか最早分からない、ネット上のコミュニティだった。
街中の野良猫、二郎系ラーメン、道端の軍手。雑多な写真が日々投稿されている。その中で”坂本”というアカウントが投稿する写真は少し特殊だった。投稿する写真の全てが俯せの男性の死体だったからだ。
死体といっても、実際に死んでいる訳では無い。それは『死んだふりごっこ』といって、死んだふりをした自らを撮影した言わば自撮りだった。 繰り返し投稿される死んだふりごっこの被写体について、写真部では「誰なんだあれは」という論争が巻き起こる。しかし、大学2年の芽衣子はその正体を知っている。何故なら坂本は、自らがLINEグループに招待した、大学外の人間だったからだ。
芽衣子の坂本との出会いは、土手だった。古着屋のバイト帰りに、倒れている坂本を見かけた芽衣子は駆け寄るが、坂本は「撮影中だったのに」と怒る。紛らわしい、と感じる芽衣子に対し、坂本は「帰りたい」と繰り返す。芽衣子が「どこにだよ」と怒ると、坂本は「月に」と答える。
後日、写真を発表する場所が無いという坂本を、芽衣子は『黙って写真を送る会』に招待する。そして、野生み溢れる容姿の坂本を見て、芽衣子は「ドレスを着ればもっと美しいのに」と思う。芽衣子は坂本に、古着のドレスを当てがう。ドレスを身に纏った坂本は、芽衣子に対し「これで月に帰れるかも」と応える。
LINEグループに投稿される坂本の写真に変化が起こる。衣装はドレスになり、髪を伸ばし俯せの坂本の死んだふりは、女性と見分けが付かなくなる。しかし芽衣子はそれをよく思わない。真実の美しさではないと感じる。
芽衣子はとっておきのドレスを用意する。「映えるから」と坂本を説得し、彼をバブル期に作られたラブホテルへと誘う。煌びやかなそのホテルの浴槽や、ベッドの上で、芽衣子は坂本を撮影する。芽衣子は坂本に性行為を要求するが、坂本は「月に帰れなくなるから」と拒否する。しかし芽衣子は、無理矢理に坂本と交わろうとし、坂本に殴られる。殴った坂本は、その場から逃走する。
後日、『黙って送る会』に、写真が連投される。竹林の中、月を見上げる坂本。続けて、その場に倒れた坂本の背中が、光に包まれた演出の写真。更には「お月様です」という書き込みがされ、それから暫くして、坂本のアカウントはキックされた。
暫くぶりに大学に行った芽衣子は、カフェテリアで坂本を目にする。坂本は髪を短くし、大きな円のイヤリングを左右にしている。坂本は芽衣子に対し「お前のメイクを私に教えろ。あとカレー」と要求する。芽衣子は膝から崩れる。LINEグループに、大盛りのカレーの写真が投稿される。
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内容に関するアピール
ガジェットとしては『カメラ(写真)』、背後にある何かとしては『竹取物語』となります。
『黙って写真を送る会』的なものは本当にあって、5年近く運営されています。実際にはグループを立ち上げた人のことだけ知っていて、彼はベビーカーの下に犬を、上に我が子を乗せて、缶チューハイを飲みながら写真を撮っていました。文章の投稿がNGなので、誰とも仲良くならないですが良い場所です。
坂本のモデルもいて、彼女は死んだふりの自撮りを始めて、もう10年近くになります。当初は公園などで死んでいたのですが、今は映えるスポットを見つけては、三脚を担いで死にに行っています。
子供のころ母が「私はかぐや姫だからいつか月に帰る」という様なことを口にしていた記憶があり、そういう感じの歌も歌っていました。今考えるとそういう人だっただけですが、そういうのも坂本に纏わせた上で、ごった煮に出来ればと思います。
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