うまれる

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梗 概

うまれる

母の腕の出来物が、少しずつ大きくなってきている。
私の母はアブダクション経験がある(と言っている)人だ。父と結婚する際に山を越えてくる時に、見たらしい。UFOを。その際に連れ去られ、宇宙人の卵を植え付けられたと主張している。子供の頃の私はそういうこともあるのかと思い、小学校で友達に話したところ、「お前の母ちゃん宇宙人〜」と揶揄われたので、面倒くさくなってその後は人に言うのをやめた。母が宇宙人な訳ではなく、母の腕に宇宙人の卵が植え付けられているだけなのだ。

妹と「あれは本当のことなのかな?」と話したことがある。妹は私と違って社交的で、本を読む必要のない子供だったので、「知らん!」と言って、浦安鉄筋家族のアニメを見だしたので、なんかやだなあと思った。趣味が合わない。

父がまた動物を拾ってきた。陸の孤島のような場所に住んでいるので、よく近隣に動物が捨てられている。少し前は捨てられていた猟犬を拾ってきて、しばらく飼っていたが、妹に噛みつこうとしたので、母が怒って、保健所に引き取られていった。可哀想な気はしたが、そういうところがあり、捨てられたのかもしれない。前の飼い主が悪い。
チャボを拾ってきたこともあった。首に紐を巻いて散歩させたりと父は可愛がっていたが、それは隣の家の放し飼いの犬に食われた。あれは隣の家のおじさんが悪い。

母の腕の出来物が大きくなってきている。母とおつぎさんがこたつで話している。おつぎさんは既に90歳を越えているが、平気で山に山菜を取りにいく。出生届が適当な時代だったとかで、本当はもう少し年上だと言っているが、流石にそんな訳はないと思っている。おつぎさんは昔、何かの拍子に片目が抉れたとのことで、義眼をしている。私が子供の頃、こたつの上におつぎさんが義眼を忘れていったことがあって、子供だったので口にいれてキャロキャロやっていた。その時の記憶ではビー玉のように真ん丸だったと記憶しているが、大人になってからこの話をブログで書いたところ、「義眼は真ん丸じゃなく平べったい」とコメントがついて、あれ?と思った。多分まん丸だったはずだ。おつぎさんは暫くして、山で遭難して、地域総出で探すこととなり、ちゃんと見つかって、暫く山菜取りをして、死んだ。

母の腕の出来物が大きくなってきている。妹が連日猫を拾ってきたことがあって、「うちでは飼えないよ」という母の指示で、山の奥のお爺ちゃんの家の玄関の中に捨てに行くことが続いた。当時うちでは猟犬とはまた別なオス犬を飼っていて、その犬はだいぶ離れた家のメス犬に会いに行くために、夜中に疾走して、車に轢かれてしまった。可哀想だったが、鎖を外した父が悪い。
奥のお爺ちゃんの家は、街の水道の全部に塩素入れるような場所というか、浄水施設のある場所の山の上にあって、なんでこんなところに人が住んでいるのだろうと思っていた。お爺ちゃんは妹が捨てたというか、玄関に入れた猫を暫く飼ってくれていて、一方が病気になってしまったとかで、獣医に二匹とも連れていったところ、病気が移ったのか分からないがどちらも死んでしまって、申し訳なかった。母が悪いのかもしれないし、そもそも捨てた奴が悪い。

母の首のあたりにも出来物ができた。心配して病院に行けと言ったところそれは悪性リンパ腫で、抗がん剤治療をして、母が弱った。歩くのが遅くなり、愉快な母だったのに、元気がなくなって、悲しかった。覚悟していたところもあったが、思いの外元気になって、今は茗荷やふきを収穫しては、農協に出荷している。
母の腕の出来物は今も、少しずつ大きくなってきている。

文字数:1482

内容に関するアピール

強みだと思っていたことで既に1、2回目をやったので、「違うパターンもあるよ」という意味で、今回は全く違う質感の話を書いてみようと思います。ほぼ実話ベースの話です。1、2回目と異なり、淡々と書ければと思います。
母がたまたま日本人としては珍しいアブダクション経験がある(と言っている)人なので、一応はそこから進んでいきます。母の腕の出来物は大きくはならなかったので、そこのみ明確にフィクションです。それをクッションにして、あの頃飼ったり、飼えなかった動物の話とかを書きたいです。

文字数:237

課題提出者一覧