質屋でGO

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質屋でGO

「腎臓だってもう売った!売れるなら俺の未来でも何でもくれてやるよ!」
夜3時にヤミ金にボコられながら歌舞伎町を震わせ叫んだ俺を気色悪い男が助けた。今はこいつの事務所だかムショだか知らねぇ部屋で向かい合って座ってる。むかつくことに新宿のオフィスビルの最上階だ。壁のガラス棚には英単語でも勉強したくなるフラッシュカードに書かれた戯言が神社のお願い札よろしくびっしり飾られてる。
『T大医学部に合格の暁には…』
『起業が成功した暁には…』
ここは何かの自己啓発セミナーか?こいつをぶっ飛ばした方がはや―
「先ほどの雄叫びに当職は感銘を受けた次第でございます…」
「つきましては私の生業のご説明の機会を賜りたく…」
こういう奴は好きなだけ喋らせた方が早い。
「先程は不当な暴力から助けて頂き大変有難うの次第でございます。それでご説明とは…」
男は語りだした。
何でもこいつは人の指を舐めればそいつの未来がぼんやり見れるらしい。元々は手相占い師だったがある時うっかり客の指を舐め尽くしてしまい自分の才能に気づいたと言う。
「かく言う訳でして…当職は、未来質屋みらいしちやを営んでおります…」
男の言い分はこうだ。
客が自分の未来を語る。男が指を舐めてその未来が起きそうかを見て値段をつける。客が値段に納得すれば男はその額を貸す。そしてその未来が訪れたら十日以内に金を返さなければ男がその未来を流す。
「未来を流すってなんだよ」
「そこは当職の顧問悪魔が対処しますのでご心配なく…」
こいつはキチガイなので指を出した方が早そうだ。
俺は何となく左手を出して俺の未来を語った。クラスで8番目に可愛かった子と結婚して…仕事で取引先にヘッドハントされて…日記をネットに書いたら出版社から自伝にしたいと言われ…
「残念ながら、お客様の未来にはお値段をつけられません」
男は俺の指をむしゃむしゃしながら言った。こいつの鼻ぐらいは潰そうと思って睨んだが男の目は蛇みたいに冷静だ。
「それでな、宝くじを買ったら1億円あたって―」
男のむしゃむしゃが激しさを増した。ほう…とか、これは…とか呟きが止まらない。
「お客様、そちらの未来につきましては、7千万円でございます」
俺は頭がパニくった。何を言ってるんだこいつは?俺が適当に言った未来とやらを質にして7千万を貸すだと?しかし俺は冷静だ。7千万をマジで貸すならこいつにはその金を取り戻す算段があるってことだが当然俺がそんな金を手にすることないぐらい俺がよくわかっている。ってことはこいつはマジで未来が見える奴で7千万を俺に貸して俺が1億当たった時に返せなければその1億を持ってくって話か?でも1億が当たるならその1億から7千万渡せばいいしよくわからないがこいつが先に金を貸すならそれを借りればいいし何ならその金を使った後にバックレるって手もある。
悪魔が何とかってのは気になるがこの場で7千万貸すって言うなら受け取らない手はない。どう転んでも俺に損はない。
「わかりました。では宝くじの未来を質に7千万円お願いします」
как повелите господин仰せの通りに、旦那様
男はフラッシュカードを契約書だと取り出し、俺は親指を針でちくっとしてから押し付けた。そうして俺は7千万を手にした。こいつはいいカモだ!

俺は今までありがとうございました負け犬共と言って仕事を辞め7千万のうち1千万だか2千万を可能な限り迅速に婚約した女に貢いだが、キャバクラは疑似恋愛だと気づき傷ついた辺りでやっぱり機械をわかるのは男だけだと開眼し2千万だか4千万で車を揃えた。札束がメロンパンぐらいになった時に俺は借金なんかはしない主義だと思い出し残りの金で宝くじを買った。
どういう訳か当たったのは4等6千円が49本。約30万だ。
俺は一瞬あせったが落ち着け落ち着け俺と自分を制して俺はまだ何も失ってないことを十分に理解した。勝利の女神は自分を疑わない漢にだけ微笑えむ。女に溶かした金は知らないが車はあるから俺にはまだ色々なことが出来る。
俺は30万でオーダーしたスーツを着て車で夜3時に歌舞伎町をパトロールして目が死んでる奴を見つけては「何だか昔の俺を見てるみたいでさ」と家まで送ってやった。そいつらはこぞって俺がどうやってこんな暮らししてるのか聞いてくるので俺は「これも何かの縁だし今度ご飯でも」と釣った。何回か飯をするとそいつらはますます俺のことを知りたがるので俺はいくらか情報料をもらい未来質屋の事務所を教えた。
その金で俺は宝くじを買いまくった。何回も何日も何年も。

いい加減に俺は疲れて未来質屋に会いに行った。
「おい。俺の7千万はいつ返せばいいんだよ」
「これはこれはお客様。お言葉ではございますが、その必要はございません。お客様には既に十分、弊社の宝くじをご購入頂いております。また度重なる客人のご紹介たいへんお礼申し上げます」

文字数:2000

内容に関するアピール

過剰な借金は面白いと思い付いたらふざけたくなりました。次は真面目に書きますゴメンナサイ。

文字数:44

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