梗 概
空へ落ちる
大学で児童学科に在籍する、19歳の「わたし」。大学からの帰り道、スマホを見ながら歩いていたわたしは、突然脇道から現れ、こちらに向いた強い光に驚いた。
次の瞬間、頭上にビルや家、街が見え、その街は猛スピードで遠ざかっていく。
わたしは空に向かって「落ちて」いた。
しばらく落ちたあと、冷たいものにぶつかった。水の粒が顔に吹きかかり、息苦しくなったと思ったところで記憶が途切れる。
眼が覚めると、身体のあちこちが痛い。特に頭が、とても痛くて、かなり強く打ったようだ。でも、なんとか動ける。
まわりには何もない。頭上には空があり、太陽が見える。使い終わった人工衛星が時々固まって流れている。
足もとを見ると、弾力と密度のある、白いものの上に立っていた。
その白いものは、しばらく歩くと千切れたように終わって、下を見ると、遥か彼方に濃紺の海のようなものが見える。
白いものは200mくらいの大きさで、空に浮かんで存在しているようだ。
数日をそこで過ごすが、時々、人が、足元から急に現れ、宇宙空間に向けて「落ちて」いく。自分の身に何が起こったか思い出せないし、この状態が何なのか考えたくもない。
ただ、おなかもすくし、トイレにも行きたくなる。唯一存在している、足もとの白いものをどうにかできないか試行錯誤する。
結果、少しちぎって形を加工すると、自分が知っているものに似たものになるようだ。
例えば、薄いピンク色のときに粘土のように丸い形を作り、桃だと思って食べるとそれは桃になる。
そのような超自然的なことが起こることに「もしかして自分は死んだのではないか」と疑念を抱くが、できるだけ考えないように快適な環境づくりに没頭して過ごす。
数日後、足もとの白いものの中から、赤ん坊が現れた。
驚くが、赤ん坊は、おなかがすけば泣くし、うんちもおしっこもするので、ケアする必要が生じる。
白いものと、保育の授業で習った知識を最大限活用して、なんとか赤ん坊の世話をする。
しかし、実際に子どもの面倒を見たことのないわたしに、赤ん坊の世話は大変すぎた。
1ヶ月ほど過ぎるころ、投げ出したくなって距離をおいて眠る。
眠りながら夢を見る。
ふだん、喧嘩ばかりだった母や家族の夢。
眼が覚めると涙を流していた。
そのとき、赤ん坊のそばを、腹から血を流す、刃物を持った男が「落ちて」いった。
何かをつかもうとしたのか、赤ん坊に向けて手をのばすが、わたしが赤ん坊を抱き取ったことで、男は何もつかめず落ちていった。
そういえば、「落ちて」いく人たちは、血を流したり、どこか身体が損傷していた。
わたしは、赤ん坊の全身を再確認する。歪んでいると思っていた頭部は、傷であり凹みだった。
恐る恐る自分の頭にも触れる。後頭部に大きな凹みがある。赤ん坊を抱きしめる。
数年後。ふたりはそこで、必要なものを作りながら、穏やかに暮らしている。
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内容に関するアピール
よく晴れた日、雲のない空を見ていると、吸い込まれそうに感じることがあると思います。
ちょっと怖いような、足元をすくわれるような感じです。
実際、そのまま、足元をすくわれたらどうなるんだろう?と考えて今回の話を考えました。
何回か、シーンが切り替わります。
文字数:124