梗 概
森の底にて
「人類の宇宙移住、実現近く」と一斉に報道されてから、国家主導で様々な環境データがとられるようになった。
地球のあらゆる植物、動物、土や水などもデータ化して分析し、宇宙にその環境を再現するという。
大学生のぼくは、アルバイトで山小屋に来た。
最大3か月滞在し、データ取得に不具合がないか見守る仕事だ。
山では、小動物や虫が、カメラやマイクを動かしたり、持ち去ったりする。物理的に人間が行って直すしかない。
ぼくは、このバイトに夏休みをすべてあて、延長してもいいと思い応募した。
大学に行きたくなかったからだ。
友達と喧嘩して、彼女とは別れ、親とも疎遠だった。消えてしまいたかった。
山小屋では衣食住は過不足なく整えられ、中はモニターで埋まっていた。
モニター監視に加え、A1からZ4まで約100地点のポイントを、1日2回、実際に歩いて確認する。
山小屋での日々が始まった。朝晩の確認と監視の他は、することがない。
毎日、草を踏みしめて歩く。最初は歩きにくかったが、最近は、ならされて道のようになってきた。時折、携帯電話を確認するが、誰からも連絡がない。
2週間が経つ頃、ずれやすいポイントがあるとわかった。M3とT2だ。どちらも地面に岩がある。
M3で、向きを調整している間中、足元にふわふわしたものが触れる感触があった。しかし、見えない。
T2でも同様だった。帰ってモニターを見るが、姿や音はもちろん温度も記録されていなかった。
M3、T2では、いつもそれが触れてきて、足元にまとわりつく。T2のほうが、少し大きい。
ある夜、眠っていると、M3にいるはずのそれが、足元に来ていることに気づいた。
まもなくT2も来た。いつしかそれらは、ずっとぼくと一緒に過ごすようになる。
本部から、モニター経由で連絡があり、仕事はあと1週間で終わりだという。ぼくは、彼らと離れることを悲しく思う。
ある日、雷のあと、停電でモニターが切れた。
その瞬間、携帯電話が鳴る。切羽詰まった声で、喧嘩した友達からだった。
大学が始まったのになぜ来ないのかと問われ、親からも何度も連絡があったこと、電話がつながらなかったことを知る。
ぼくは、バイトのことを告げた。友達は、監視者自身のデータも環境の一部として取得され、問題になっていると言う。
よく見ると、山小屋の隅に、カメラが設置されていた。ぼくは下山を決める。
帰る前に、M3、T2を出会ったポイントに返そうと連れて行く。
M3で、埋まっている岩に触れると、質感に違和感がある。停電のはずなのに、岩の奥で何かが光る。そこへM3がすいこまれていく。
ぼくははっとして、T2とともにポイントへと走る。T2の岩も、奥で何か光る。T2は、ぼくに触れてから、その中へ吸い込まれていった。
彼らも、ぼくを見ていた。監視していたのだ。走って山を駆け降りる。涙で前が見えない。
文字数:1193
内容に関するアピール
自分の武器について、何週間も考えました。
小説、詩、マンガ、絵本、随筆、絵まで、ジャンル問わず、今まで好きだと思った作品をずらっと並べて眺めているうちに、
ひとつの共通点が見つかり、それを武器としたいと思いました。
私は、自分の武器、目指したいことを「自然が描かれていること」と仮定します。
そういえば、生まれ育った場所は自然いっぱいで、一時期住んでいた都会でも、大きな公園のそばにしか住めませんでした。
自然の中にある不思議さや力を、どうにか文章にして届けたいと思っています。
ただ、小説を読むとき、自然を含む情景描写は、わりと飛ばして読んでしまいがちです(私は)。
自然についてどう書くかは、私にとって、とても大きな課題です。
今回は、ひとりぼっちの主人公が、自然の中で、何と出会い、どんな体験をするのか、
SFとの関連も含めて、あれこれ考えて書きました。
文字数:371