梗 概
この宇宙に愛を誓って
宇宙旅行が一般的になった近未来。少しお金を積めば、誰でも個人で宇宙船をチャーターし、月まで気軽に旅行に行くことができる。主人公の女も、そんな宇宙旅行者の一人。種子島宇宙センターから、空へと飛び立つ。
しかし彼女は地球からのスイングバイが済むと、宇宙船を手動操縦に切り替えて、月とはまったく違う方角へ、太陽系を離れる航路へ舵を切った。彼女は星が好きだった。生きているうちに、直にその目で宇宙の天体を見てみたかった。それには、宇宙船を奪取してでも今すぐ実行するしかない。なぜなら、彼女は不治の病で余命いくばくもなかったからだ。
彼女は宇宙旅行を心底楽しみながら、地球に残した恋人とのメッセージをやり取りする。元々は恋人と月旅行をする予定だったが、直前になって彼女の病気が発覚し、叶わぬ夢となっていたのだった。彼女は目に見える宇宙の様子を伝え、恋人は地球での日々を綴る。時に互いの昔話を送り合っては、過去を懐かしむ。地球を離れるにつれて、メッセージの送受信に時間がかかるようになる。それを除けば、順調な宇宙旅行に思えた。
しかしトラブルが発生、密航者の少年が潜り込んでいた。
少年はこの宇宙船が月に行くものと思っていたが、いつまで経っても到着しないので、とうとう姿を現したのだった。
彼の話によると、月面基地に勤める父親が怪我をして危険な状態らしい。彼の家はそこまで裕福でないため、月まで行く費用を工面できず、思い余って彼女の船に潜り込んだという。
この船の目的地が月ではない、それどころかどこにも行くあてもないことを知ると、少年は愕然とする。彼女としても、自分の死出の旅に幼い子供を巻き込みたくはない。やむを得ず引き返すために、宇宙船のAIに月へと戻るルートを計算させる。しかし、そこで無情な結果を突きつけられる。
宇宙船を方向転換させるには多くの燃料が必要だった。月に安全に着陸するためには、現在の燃料ではほとんど余裕がない。少しでも着陸の成功確率を上げるためには、可能な限り燃料を節約する必要がある。それには不要なものを船外に投棄し、船を軽くしなければならない。現状、最も確率が高くなるのは、乗員が一人減ることだった。
彼女にはわかっていた。自分が船を出れば、自分の重さに加えて、食料や飲料の分も軽くできる。どのみち死ぬつもりの旅だったのだ。後悔があるとすれば、恋人からの返信がまだ来ていないこと。
ぐずぐずしている暇はなかった。判断が遅れれば遅れるほど、燃料は減っていく。
彼女は、最後に直筆の恋人宛の手紙をしたためると、少年に託した。そして宇宙船を飛び出していく。彼女の目の前には、無数の星がまたたく果てしない宇宙が広がっていた。
文字数:1118
内容に関するアピール
選んだ題材は、「不治の病にかかった恋人」そして「方程式もの」です。
まだ構成がまとまり切っていないですが、「往復書簡体形式」を採用してみようと考えています。
これもある意味、文章形式における使い古されたネタと言えるかもしれません。
宇宙に関しては知識が乏しいのですが、チャレンジしてみようと思います。
文字数:147