花冠(かかん)が種子を宿す頃

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梗 概

花冠(かかん)が種子を宿す頃

 荒廃した遠未来の地球。
 ある古く巨大な植物型都市で、住民達は都市に隷従し、都市の保護を受ける関係にある。
 住民の一人“ユゥ”は都市に奉仕する“栽培士”の少女である。
 栽培士は都市構造の基盤である巨大植物群と住民の生活を維持・管理する一種の公務員であり、一級栽培士は都市の最上層である特権階級専用の居住区“花冠”で、希少な植物群の世話をし、世界を見渡す景色と贅沢な生活が保証される。

 栽培士の二級試験に合格して近隣住民達から祝福された夜、ユゥは手負いの少女“ヒャン”に出会う。ユゥは亡き両親からの“困っている人を助けなさい。お互い様だから”という教えに従い、自室に香を匿う。
 香は、自分は世界を旅し、様々な危機を都市に知らせ、変化を促すための旅団に属していると言い、この植物都市が老いて滅びかけていると警告に来たが、治安部隊に追われていると言う。ユゥは都市が滅ぶ未来ではなく、何百年もの環境変化に耐えた都市の力を信じようとする。一方で、香が「困っている人」であり「捕らえるべき侵入者」である事実に、両親の教えと都市の規律の間で葛藤する。

 翌日、香は姿を消しており、治安部隊がユゥの部屋に踏み入る。部隊は都市中枢である“花冠”から、ユゥが呼び出されていることを告げる。
 高揚と不安を覚えながら最上層に着いたユゥは、そこで都市を司る組織である“指導部”から、新たな植物型都市を育てるための極小の種子を授かり、その種子を旅人である香に飲ませるよう指示を受ける。
 種子を飲んだ人間は、一か月後に苗床となって動けなくなり、身体から根が伸びて大地に固定され、新たな植物型都市の基盤になる。そのようにこの都市も成長したのだと指導部は語り、ユゥは戸惑う。
 外界から来て、型破りで様々な植物や生物や都市を知っていた香を、人ならぬ存在に変えてしまうことにユゥは抵抗を覚えるが「役目を果たせば、特例で一級栽培士に昇格させる」と指導部に言われ、ユゥは種子を受け取ってしまう。

 自宅に戻ると、治安部隊に追われ、部屋まで逃げてきた香がユゥを出迎える。
 ユゥは指導部の指示通り「栽培士の権限で都市の外へ逃がす」と告げ、身体に良い料理を作ると言って、スープの椀に種子を入れる。
 香はスープを飲み、事情を分かっている笑顔で告げる。
「いいの。これも私の務めの一つだから」
 ユゥは、自分も外の世界に憧れていたのだと気付く。
 翌朝、二人は都市を出発。香はできるだけ新しい都市に適した環境を目指し、ユゥを故郷に帰そうとする。だが、ユゥは香から離れず、寝る間を惜しんで世界を感覚する。

 一か月後、新たな都市の根が、ユゥの身体から生えてくる。

 種子が入った椀をユゥは自分で選んでいたのだ。
 ユゥが香に告げる。
「故郷もあなたも好きだから、裏切りたくなかった。大丈夫。私が種を宿す頃、あなたを継ぐ人が私を助けてくれるでしょう? お互い様だよ」

文字数:1200

内容に関するアピール

自分と全く違う思想を考えるため、内省から始めました。

私は、割と色々いい加減で、自分に甘いダメな奴というのが自己評価ですが、一方で、「人生を掛けて自分がやりたいことを精一杯やることが一番大事。そのためにどこへ行き、何をしても良いのだ」という思想を重視しています。

基本的に、その思想を正しいと思っていますし、これからも貫く予定ではあります。
そんな私ですが、ある年に実家へ帰った際「お前は故郷を捨てたんだな」と叔父に言われた一言が、いつまでも胸に残っています。
私は、故郷を顧みないことを良しとして、そのことにどこかで罪悪感があるのでしょう。

よって、主人公は私の逆に「素直で元気で懸命で、故郷と周囲を何より大事にし、それでもどこかで自分の気持ちを大事にしたいと考えている少女」としました。

メインの二人は「ハマユウ」と「ハマゴウ」という海岸の植物からの着想です。

よろしくお願いします。

文字数:387

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