梗 概
URO-Unindentified Regenarative Organism-(ユーロー)
1.1999年8月、C県郊外から永田町
「ユー・アール・オー? ユーロー? これは何です?」
内閣情報調査室で非公式の潜入調査に当たっていた高山 和哉は、煤けた頬をこすり、困惑した。上司に突き出された黒塗りだらけの英語の書類の中、何とか読めたのが、その言葉だったからだ。
その日、C県で宗教法人「ほうおうの光」の施設に立入り調査が行われる直前、大規模火災によって多数の死傷者が発生。この法人に潜入し、調査を受け入れる手引き役となっていた高山は、調査失敗の責を負わされ、永田町の事務所で憤慨していた。
高山の上司は、事前の情報漏れを疑う仏頂面で、外務省の上層部から渡された資料に記された言葉が未確認“再生型”生命体(Unindentified “Regenarative” Organism)という意味で、教団に安置されていた亀裂だらけの岩にしか見えない御神体を指していることを告げる。
「私が追っていたのは謎の生命じゃなくて、この女性ですよ」
そう言って高山が投げ出した資料には、教団に入信し、失踪した三十代女性の写真が挟まれていた。
御神体たるURO(ユーロー)も、三十代女性も現場から消え、痕跡も見つからなかった。
2.2012年8月、東北地方、某県
「おじさん、お姉ちゃんのことを付け回すのやめてよ」
瓦礫の山を背に、少女をかばう幼い少年から、高山は冷たい言葉をかけられた。
内調での失敗後、民間企業に入った高山は個人的に行方不明の女性の探索を続けていた。行方不明女性の両親が悲嘆に暮れる姿が忘れられなかったのだ。
高山は「ほうおうの光」の後継団体が、震災後の人道支援を行っていると突き止め、接近した。
団体の中心人物は少女であり、行方不明女性に姿はそっくりでも、若く、実在する戸籍を持った別人と分かった。
高山は彼女への疑念を深めながら、仕事を辞めて団体に所属し、彼女の明るく献身的な人となりを知っていった。
3.2022年2月、関東地方、某県
非常事態宣言下で感染爆発と医療崩壊が起きる中、成長した少女と高山は、志を同じくする仲間達と共に、寄る辺のない人々の支援に回っていた。
世界に不安が蔓延するなか、元少女は急激に老化し、かつて「ほうおうの会」にあった御神体の姿に収縮していく。高山は彼女が、行方不明女性とUROが融合した姿であることに気づくが、既に仲間達と同じく自身もUROを中心とした生物群系の一部に取り込まれ、行動を制限されていた。
UROは人類に寄生し、人の悲しみや絶望を吸い、その容量が限界に達すると燃えて種子を散らし、その系を拡大しているのでは、と高山は推測し、その思いに殉じたいと願う。
小さな石になった元少女を抱えると高山は燃えて舞い上がる。転生し、人の希望を接ぐために。
「あなたの苦しみも和らげたいんです」
高山は、少女の声を聴きながら世界中に散らばる同類達の存在を感じていた。
文字数:1197
内容に関するアピール
世界中に広がる暗いニュースや悲惨な事件の裏側で、希望の持ちようもない絶望的な状況にいる人々や、綺麗ごとでは助けられない人々がいることを常々感じます。
悲劇が陰謀によって巻き起こされているという言説は度々見かけることがありますが、絶望からの救済と希望を持ち続けるために密かに何者かが活動しているというような陰謀論は見たことがありません。
勿論、多くの人が様々な団体や個人として、自力で他人や自身を救うために善意で活動していますが、社会心理学的にも神経科学的にも人は悪意の方に敏感であることに寂しさを感じます。
そんな孤独な人類を陰から献身的に支えている謎の生命体がいたら、という妄想を形にしてみました。
各シーンは国内の実在の惨事を想起させる象徴的なシーンを繋ぎ、薔薇色の未来は無理でも、せめて絶望に抗いたい人々の思いを繋いでいくような構成を目指しています。
よろしくお願いいたします。
文字数:387