くり返しの行き先

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梗 概

くり返しの行き先

 小田切ユイカが、この人生が2回目である、つまりループしてると気づいた日。前世の親友、杉浦リツカが現れる。
 彼女は7回目だという。旧友に会えた喜びで、夫だったヨシミツくんと再び交際したいと話す。
「禁止されてる。貴方には2度目でも、ループは既に9012回目。記憶保持者は、六千人にのぼる。彼と交際する事が、ループで記憶を持ち越す条件なの。残念ながら本人は記憶を保持していない。互助組合から出発した統合管理機構ジェネシスは、いまや世界を制御している。参加を歓迎する。なお貴方に拒否権は無いわ」冷ややかなセリフ。

 交際運用特務機関エデンに配属された。大学生活に紛れ、友人として接しながらヨシミツくんを護衛する。その合間に杉浦リツカから教育を受ける。
「婚姻を問わない平均5年の同棲が記憶保持の条件。様々な利害を持つ組織が、野方図に記憶保持者を増やして混乱した状況が続いてた。10ループの間、監禁して効率的に増やした組織もあるわ」
 思慕を押し殺し選定した女性と接触させ反応を見る。ヨシミツくんが、これで幸せなのか疑問を持つ。
 苦労の末、交際へ発展する。次の候補者を選定中に、グレートリセット(ヨシミツくんの死)が起こり世界が巻き戻る。

 ループ9013回目。前回は暴漢に刺殺されたのだった。ヨシミツくんの死を繰り返すことでループの数をこなせば脱出できると主張する過激派が活動を再開したようだ。
 ユイカは、ヨシミツくんと会話する。しかし過去の二人の人生も、前回のループも何も覚えていない。自分のヨシミツくんがすでに居ないことを改めて痛感する。
 新たにヨシミツくんの相手を選定し交際させ、次の候補の女性の選定にはいる。そこでまた、グレートリセットが起こる。

 9014回目。調査の結果、原因は交際者による犯行だった。ループ開始直後に整形して、本来の選定者と入れ替わった記憶保持者である。判明した内通者を尋問した。ここは永遠に続く牢獄である。ヨシミツくんも記憶が継続しておらず、自由意志が奪われている。不幸で許容できないものだと主張する。ユイカは、それでも毎回の人生を幸せにしてあげることは出来ると考えた。

 9027回目。公園で子守をする彼を見守りながら思う。人生を何度か最後まで見届けた。今回の銃撃戦はさすがに冷や汗をかいた。
「今世のヨシミツくんは幸せかな。分かったんだ。きっと実現してみせる。ループから皆が自由に出ていけるようにする」

 その後の300回を利用してタイムマシンを開発し中立移住機関エクソダスを立ち上げた。今では望めばループの外側の未来へ移住できる。
 過去に戻って殺害しループを発生させない事は試みられなかったようだ。あるいはSFのように、世界線が分岐するということなのかもしれない。 
 ユイカもいずれ引退して外側に移住するつもりだ。その時、初めてユイカのヨシミツくんの為に墓参りができるだろう。

文字数:1196

内容に関するアピール

☆ 課題への応答
私はつい自分の幸せを考えます。
日頃、家族の幸せを考えるのは、自分にとって家族が快適で幸せな方が過ごし安いからです。
不純な自分と違い、純粋に「誰かを幸せにしたい」と願う動機、つまり違う思想を持つ人物を主人公に据えました。

☆ 他の「ちがう思想の人物」
また、相手を殺す理由に、対象の幸せを説く論理を思想にまでする度量は自分には無さそうです。
作中の過激派。また永遠のループを生きる不死者たちも自分とは異なる思想を持っているでしょう。

☆梗概未記載の設定
「大断絶」
 統合管理機構ジェネシス成立後、2000ループほど、ヨシミツくんに誰とも交際しない人生を生きてもらった。
記憶保持者をむやみに増やさない目的だ。だが記憶保持者は永遠の生に耐えきれず組織が無気力になり形骸化して行く状況となった。ここ1000回ほどの交際は計画的に運営されている。この期間は「大断絶」と言われている。

文字数:387

課題提出者一覧