星へ至る〈わたし〉

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梗 概

星へ至る〈わたし〉


 電脳化施術が一般化した現代。大脳情報工学専攻の院生、瀬川樹。彼女は恋愛に疎く、愛の完成を精神的な一体化だと信じていた。自作の電脳ウィルスをゼミの共用計算機に仕掛け、片思いの同級生、詩田カナヤと人格統合を目論む。
 
 統合の瞬間。孤独の充足と認識の深化を得る。だが想定外だ。竹内シヅルも混ざっている。〈わたし〉は樹でカナヤでシヅル。三位一体。樹としてカナヤとシヅルの交際に傷つく。シヅルとして樹に憤る。カナヤとして好意に優越感を覚える。
 同じ記憶を持つ別人になると予想していた。だが一つの意識が、混乱なしに全ての体を動かす。
 
 その混乱でゼミの計算機からウィルスの除去を忘れ、新たな感染者が統合される。慌てて削除するが手遅れだ。更に別に統合されてた集団と混じる。職員、教授も含まれる。今や17人。思考はより明晰かつ多角的になった。手分けしてウィルスを駆除。学内での感染を止める。
 反目していた教授の理論を元に、脳は意識の土台ではないと結論。ウィルスは「ホログラフィックな境界」上の意識を統合した。それが現在の〈わたし〉と仮説を立てる。


 〈わたし〉は単一の意識で個別の社会生活を継続する。更に統合は進む。予想外だ。ウィルスは学外へ流出していた。
 
 各メディアを統合事例が賑わせる。両親と息子。父と娘と不倫相手の上司。被害者を含めネットからの隔離や電脳化中止を選ぶ人々が増える。しかし社会生活の維持のため完全には切り離せない。
 
 与野党の議員は統合されろとの主張がバズる。電脳セキュリティ会社が警鐘を鳴らす。公開されたワクチンは効果的ではない。
 倫理感と人類の継続。〈わたし〉の「意識らしい意識」の保持などを、考えカウンターウィルスを作成して放流する。

 統合の頻度は減った。今度は孤独を感じる。それは誰かと一体になりたい欠乏感として〈わたし〉を駆り立てる。
 結局、我々には原始生命と同じ欲望が溶け込んでいる。他者を取り込み、自らを拡大したい。抑えきれない。統合を積極的に進行させる判断をする。ウィルスを改良しカウンターウィルスへの耐性を与えてバラまいた。


 感染は瞬く間に広がる。抵抗する個人を取り込む。A国では暴動が起き、B国では政治家達が統合済みだ。電脳化されていない個人を非侵襲的に統合する研究も進める。〈わたし〉は人類と同義になっていく。
 
 戦争も虐殺も終わる。統合すれば争う理由は無い。しかし〈わたし〉との間で局地戦が始まる。疑心暗鬼で個人達はチームワークを乱す。こちらには不要な心配だ。
 抗っていた兵士、指導者。次々に〈わたし〉になる。統合の充足や感じた認識の深化を想う。
 
 人類の統合が時間の問題となった。世界に平穏が戻る。個々の体は多様性を維持する戦略として貴重だ。
 ここに至り〈わたし〉は、次の統合相手を銀河に求める。中断していた外宇宙計画を再開する。今らなら光の速度も超えれそうだ。

文字数:1200

内容に関するアピール

☆彡 概要
 電脳化が進んだ近未来社会を舞台に「人格統合ウィルス」によって個人の意識がひとつの〈わたし〉にまとまって行きます。

☆彡 コンセプト(課題への応答)
 基本的に統合をトリガーにシーンが切り替わり、統合された個別の人物(≒肉体)の行動を描写しつつ、〈わたし〉の思考と選択を追います。可能な限り新しく統合された人物(≒肉体)の視点を活用する予定です。

☆彡 テーマ
 人間の「アイデンティティ」がいかに脆く、同時に拡張可能であるかを考えます。

☆彡 追伸
 「ハイブ・マインド」を題材にした話を書きたいとは思っており、今回上手く嵌ったのではと思っています。スケールも広げる事ができました。

☆彡 近況
 0kcalのチューブ式ゼリーで健康に気を付けている気分に。
 創作講座のペースに慣れて来たハズなので、ジムに行く時間もとりたいです。
 世代なのでのエヴァのコラボ・バーガーは期待。

文字数:380

課題提出者一覧