梗 概
太陽の内なる目覚め
太陽系一周レースの最終コーナー。水星軌道の内側。クレアは耐熱限界ギリギリを6日間維持している。トップになるチャンスを諦めない。こんな危険なリスクは誰も取らない。2位でもいいじゃないかと言うチーム監督を説き伏せ、公転が無くスイングバイが得られもしない太陽を攻める。1位でないとオタンは振り向いてくれないだろうと焦燥する。
今や独自のコミュニティを創始して集団生活することは一般的になっている。クレアはそんな一つで生まれた。オタンは村を始めた長である。クローンである村人すべてのオリジナル。母であり太陽。みな彼女の光を受けて輝く。だがオタンは古くからのメンバー「月の輪」達とばかり交流し、彼女らとだけ「睦み」を行う。クレア達を加えない。幼いころ頭を撫でられた瞬間。胸が熱くなり全身に光が満ちた。代えられぬ経験。自分の内にも光があることに気付いた。それからクレアは「月の輪」より特別であると証明してオタンに選ばれたかった。だが、複製である自分は太陽になれない。目を背け、村から距離を取った。レースに挑んでいるのは内なる光を証明したいのかもしれない。その時、宇宙船は突発的なフレアの爆発に巻き込まれた。
白い部屋で目覚める。ソレイユという女性が介抱してくれる。ここは太陽の中であると言う。建物の外に出してくれと言うが、まだ早いと諭される。やがて、彼女たちは地球のことを知りたがっていると分かる。
ある日、外へ連れ出される。そこは灼熱の世界。自分の姿を保っていられない。クレアは輝く光のプラズマになる。混乱するクレアにソレイユが重なる。彼女たちは恒星内生命。これが本来である。
プラズマを肉体として維持しているのは精神そのものだ。長い歳月の試行錯誤が遺伝子を生み出したように、太陽内で発生する電位の試行錯誤がプラズマなどの物理事象に干渉して自己を保持し続ける電位構造を生んだという。
その能力を使えば、焼けつくされるクレアの脳の電位を保持して同等の能力を授けるのは造作もなかったそうだ。
彼女は太陽自体であるかのように心に入ってくる。体を構成するプラズマの交換。あの日のオタンのようでさえある。太陽同士の交合を理解し、満ち足りた時間を過ごす。
交合を重ね、オタンへの思慕を話す。ソレイユは自信が恒星内生命が作ったクレアの複製であることを打ち明ける。問題は複製であることではないことを理解した。
今ならわかるオタンは孤独なのだ。自分はそれを埋めることが出来るという考えに取りつかれ、地球に帰る選択をする。
再生された宇宙船で地球に帰還する。奇跡の生還として歓待される。迎えの仲間と村に帰る。祝いの宴でオタンは「お前はもう戻らぬものと思っていた」と語りかける。そのまま「月の輪」達と「睦み」が始まる。
退出を促されたクレアはオタンに胸中の光を伝えようと、恒星内生命として発現。プラズマを室内に満たすのだった。
文字数:1200
内容に関するアピール
自己完成について想い、哲学的な問いを頭を巡らせる内省的な青春を送った事を強味(仮の武器)と置きました。
自己についての「問い」「確立」は、なんやかんやで一生ついて回ります。
読者も歳を取っても未来に悩み、過去を懐かしみ、今の自分について考えるでしょう。
照らす者の孤独。それに憧れる者の疎外感。みな色々想いのあるものです。
創作をする者にとっては「オリジナリティ」も問われ、
誰かの「模倣」でしかないのではと悩むと思います。
(いまいま実際、書いてて悩んでいます)
そんな時、全てが自らに与えられた鏡の様にも感じます。
今回はさらに、幻想的SFと太陽への思慕を組み合わせ作品としました。
強味を活かした内省的な作品と評価されると嬉しいです。
自分も、これを書いていて自らの内なる光について考えました。
文字数:340