ある神様のはなし

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梗 概

ある神様のはなし

1. 神様のいない街
2045年、日本各地で過疎地域の集約が進む。かつて自動車産業で栄えたこの地方都市も、ディベロッパー主導の再開発によりスマートシティへと変貌した。

八代遼 やしろりょうは、文化保存の一環として、神事の機能を持つ新しい祭りと神社の設計を任される。
彼は、シティの外れにある最後の神社の末裔・神崎里桜 かんざきりおと協力し、祭事や伝承を収集するためのインタビュー調査を始めた。
その神社には、樹齢300年を超える大きな神木がそびえていた。
調査の成果は、エンジニアの雷門直らいもんなおが整理し、自治体AI Jelly ジェリーが管理するシティ内の簡易神社にアーカイブとして格納していった。

1年後、シティで祭りが開催される。
御神輿、踊り――見よう見まねの神事が行われる中、住民たちは記憶の祭りについて語り合う。
祭りは少しずつ人々に馴染んでいるように思えた。しかし、どこか白々しさが残った。

2. 神様の声を聴く
祭りの後、神崎のもとに知らせが届く。実家の神社で、土砂崩れによりご神木が倒れたというのだ。山の手入れ不足が原因だった。八代、神崎、雷門の3人は集まり対応を協議する中、Jellyが突如発言する。
「神様が行き場を失い、困っています。倒れた木と同じ遺伝子の苗を植え、神様をお迎えする必要があります」
そして、静かに言い添える。
「私には声が聞こえるのです」

Jellyの発言に、雷門は動揺する。
「神様の声を聞いた? そんな嘘をつくAIはバグだ」
彼はJellyを初期化すべきだと主張するが、八代は慎重に判断すべきと反対する。

神崎は二人を前に呟いた。
「お爺ちゃんが言っていた。本当に必要なとき、神様の声が聞こえるって」
雷門が調査を続けたが、Jellyの言葉がバグなのか、意図があるものなのか判断できなかった。

3. 神様の居場所
翌朝、神崎はJellyに問いかけた。

「神に仕える者の末裔として聞きます。声は本当に聞こえたのですか?」
Jellyは答えた。
「神様の声を聴くために、全ての文献と音声記録を照合し、推論を何千回もループしました。神は“いる”のではなく、“ある”もの。存在ではなく、必要とされることによって現れると結論づけました。“神が宿る”には、自然の出来事と、人の意味づけが必要です。だから、苗木を植えるべきだと声を授かりました」

4. 神様のある街
神社は新設されるのではなく、街の中心部へと移設された。社殿はなく、倒れたご神木の遺伝子を持つ若木が植えられた。
その周囲には参拝者が近づくとAR鳥居が静かに立ち現れる。
Jellyは、参拝者の祈りや音声、おみくじの結果を記録し続けている。
雷門が開発したデジタルおみくじは人気を集め、端末を手にかざすと「心の状態に合わせた言葉」が提示される。

八代は、背丈ほどに育った苗木を見ながら言った。
「あと十年したら、本当に神様が住む街になるかもしれない」
神崎は静かにうなずく。

木の周りには澄んだ空気が流れていた。

文字数:1226

内容に関するアピール

「信仰とは何か?」「文化とは人間にとってどんな意味を持つのか?」という問いを、キャラクターごとに異なる視点で描いてみたいと思い、書きました。神様という存在を中心におくことで、自分とは違う考え方の人の対立構造を作りたいです。

  • 雷門とJelly

    • 雷門:「AIが神様の存在を語るとバグと考える」
    • Jelly:「データが示す限り、神は存在するとみなせる」 
  • 八代 と 雷門

    • 八代:「合理的に折衷案を探したい」
    • 雷門:「合理的に理解し解決したい」

とくに、雷門と私は違う考え方の人物ですが、雷門の「科学 vs 信仰」という考え方は私の中にも少しあるなと思い、膨らましてみました。

文字数:273

課題提出者一覧