誰もいない村

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梗 概

誰もいない村

登場人物

  • 黒田俊
    35歳。ジャーナリスト。
  • 関口和彦
    右京と左京を開発したエンジニアであり、かつての星影村の村長。
  • 右京
    アンドロイド。100年間、関口の意志を継ぎ、村を守り続けている。
  • 左京
    村をできる限り長く維持するために開発されたAI。左京に身体はない。

 

*
2150年、日本の過疎化は深刻化し、地方自治体は次々と崩壊。都心部のみインフラが整備され、AIによる管理が進んでいた。

黒田は追い詰められていた。取材データが、審査AIに却下され続け生活に困窮していた。しかし、国に保護され、AIに与えられた仕事をすることはどうしても避けたかった。父の『AIを使う人間以外は落ちこぼれだ』という言葉に囚われていた。
そんな中、「100年間変わらない村」の噂を掲示板で見つける。衛星写真でも村の様子が変わっていない。黒田は取材を決意する。

**
自動運転車を乗り継ぎ、崩壊した元国道を抜けた先に星影村があった。整然とした田園風景が広がるが、人影はない。
ドローンに迎えられ、村の奥の屋敷へ案内される。そこでは白い長髪に和服姿の右京が待っていた。
黒田が、ジャーナリストをしていると言うと右京は歓迎した。

「記録に残してほしい」と右京は村の歴史を語り始めた。

120年前、関口は村を存続させるために右京と左京を開発した。右京は住民と対話し文化を保持し、左京は村を長く維持するための思考を担った。人が減るごとに、作業用ロボットを投入し村は維持された。
関口の願いは、人が住む限り自然豊かな村を長く残すことだった。

***
村の維持は限界を迎えた。多くの住民は都市へ移住した。残った住民は排他的になり孤立していった。左京は、感情的な選択で村が早く壊れていくことを悲しんだ。そして、村を出て都心部に出ること決めた。右京は、一緒にいてほしかった。せめて、最後の住民が亡くなるまでは。
しかし、左京は「それを待っていると人の世は早く終わってしまう」と言い消えた。

都市では上位層がAIを用いて意思決定を行い、AIが人に仕事を割り振る。結果として、多くの人々は意思を奪われつつあった。
「左京は統制AIへと変貌したのではないかと私は思っている。少しでも都市を長く存続するために」右京は目を伏せ言った。

****

「もう誰もいない、この村を閉じようと思っていた。ただ、踏ん切りがつかなくてね」
そう言って右京は目を閉じ、動作を止めた。

黒田はインタビュー映像をニュース投稿サイトへアップロードする。
『却下、危険な思想が含まれます』という警告が表示された。
警告を見つめながら、左京の影を感じた。もしこの事実が広まれば、都市の寿命は少しだけ短くなるかもしれない。

黒田は違法掲示板にデータをアップロードした。「最初からこうすればよかった」。

穂をつけた稲がさらさらとなびいていた。古いロボットがよたよたと刈り取りの作業をしている。
都市も100年たったらこうなるのだろうかと思った。

文字数:1199

内容に関するアピール

「シーンを切り替える」と言うテーマを見たとき、『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』を思い出し、アンドロイドにインタビューしたいと思いプロットを作成しました。

主人公の視点から現代を、そして右京の視点から過去の話しを回想しつつ、それが繋がっていくところを描きたいです。

文字数:133

課題提出者一覧