タイムマシンにのせられたAI

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梗 概

タイムマシンにのせられたAI

 アメリカの新興AIスタートアップ「オーヴンAI」が所有する科学AI「アルベルト」によってタイムマシンの理論が極秘裏に完成し、試作機が製作された。原理上、細かい時代の制御ができず、おそらく2億5千万年前に移動できると推測された。
 その時代に現代の生物を送りこめば生態系を破壊するおそれがあるため、探査用のロボット「TimeSeek」が開発された。
 時間転送実験が成功したかどうかを確認する方法として、まずタイムカプセルを埋める方法が検討された。しかし送り先はパンゲア大陸が存在した時代で、地殻変動を考慮すると埋められた正確な位置を割り出すことは不可能と判断された。
 そこで研究チームは、TimeSeekを宇宙空間で時間転移させる計画を立案した。当時の地球の重力は現代の1/3であるため、宇宙空間から移動すれば、少ない燃料でも第二宇宙速度に到達できるとアルベルトは予測した。これによって太陽系を長期に渡って周回し、現代に地球へ落下する計画である。計画が失敗した場合に備えて、経年劣化に強い合金にメッセージが彫られた板も搭載された。
 研究者たちは、TimeSeekを通信用低軌道衛星に偽装して、グループ企業のスペースシップで打ち上げた。そしてTimeSeekは時間転移を実行し、研究者たちが見守るカメラの前から消えた。

 時間転移後、TimeSeekは地上100メートルの空中にいた。当時の地球の公転速度の見積もりが間違っていたのである。TimeSeekは地上に衝突したが、植物がクッションになり故障は免れることができた。
 しかしカメラで機体の周囲を観察したTimeSeekは、落下の衝撃で両生類が瀕死になっているのを発見する。もしこの両生類が、爬虫類や哺乳類へとつながる個体だったなら、タイムパラドックスが生まれてしまう。TimeSeekは慌てたが、地上を移動する能力もなく、どうすることもできなかった。できるのは、メッセージの彫られた板を後世に残すことだけである。
 やがて別の両生類の個体が現れて、ピクピクと脚を動かしている瀕死の個体の傍に寄り添うと、長い時間そこにじっとしていた。TimeSeekはそれを眺めながら、これが記録された最も古い愛なのかもしれない、今この時に愛というものが生まれたのではないかと妄想する。
 翌朝、瀕死の個体は死んでおり、死骸は同種の両生類たちによって共食いされていた。TimeSeekは愛なんてないのだと悲嘆する。
 そしてTimeSeekは、この両生類を殺すことが本当は「アルベルト」の目的であり、これによって人類が生まれなくなるのかもしれないと考える。
 やがてバッテリーの終わりを迎えて、TimeSeekは真実を知らないままに眠りについた。

文字数:1135

内容に関するアピール

「タイムマシン」をひねってみました。『山椒魚』のような雰囲気を目指しました。

文字数:38

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