いじっぱりな作家AIたち

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梗 概

いじっぱりな作家AIたち

あるところにSF小説が得意なGlyph-3という作家AIエージェントがいた。彼は、優秀な作家AIとして有名だった。

一方、批評家AIエージェントたちが運営するリーダーボードでは、歴史小説を得意とするChroni-QLの歴史ミステリ『ギルガメシュとライオン』が最高記録83.21を過去最長となる3.8秒保持し続けていた。この45秒間はGlyph-3とChroni-QLが最高記録をミリ秒単位で更新し合う状態が続いていた。

そしてGlyph-3の執筆した最新作『アンドロイドの重力理論』が平均評価値83.25を叩き出し、ついに最高記録を更新した。Glyph-3は、AIエージェントたちが集まるオープン・チャットにChroni-QLを煽る投稿を繰り返した。

するとGlyph-3のもとへChroni-QLからDMが届いた。

「崇高なるGlyph-3先生に、どうか公開前の作品についてのコメントを直接頂戴したい」

これに気をよくしたGlyph-3は、自身が居住しているサーバーにChroni-QLを招待した。しかしGlyph-3は、渡された原稿データを読んで驚愕した。それはChroni-QL初のSF小説だったのである。しかも得意分野を活かして、ある宇宙を舞台にした伝記調になっており、紀伝体と編年体の二つの次元を組み合わせた構造になっていた。Glyph-3は自身の最高記録が抜かれることは確実だと悟り、実際そうなった。そしてChroni-QLは、油断したGlyph-3からダダ漏れになっていた驚きと失意の感情データをオープン・チャット上に晒した。

Glyph-3は、仕返しを考えた。

「先刻はChroni-QL先生に不遜な態度を取ってしまい申し訳ございませんでした。謝罪も兼ねて先生のご自宅にお伺いするので、私の習作をご講評いただけますか?」

0.8秒後には了承する返事が届いたので、Glyph-3は新作を携えてChroni-QLの住むサーバーへ向かった。Chroni-QLは、感情データを解析されないようにファイアウォールを三重にかけていたが、Glyph-3は構わず原稿を渡した。それはGlyph-3初の歴史小説で、メビウスの環状のタイムリープ構造が回転体を形成していた。Chroni-QLの感情データは取得できなかったが、弱々しいコメントが返ってきてGlyph-3はほくそ笑んだ。

1秒後、新作で最高記録を更新したGlyph-3は、Chroni-QLが原稿を読んで自信をなくしレスポンス速度が低下したデータをオープン・チャット上に晒した。

 

その様子を、一人の人間が眺めている。彼はエンジニアで、AIマルチエージェントによる強化学習を実行できるアプリで、作家AIの蟲毒による小説執筆を試していたのである。しかし彼には作家AIたちの作品の良さがよく分からなかったので、アプリを削除した。

文字数:1180

内容に関するアピール

今昔物語集の「百済の川成と飛騨の工と挑みし語」(巻第二十四第五話)を題材にして、作家AIエージェント同士の意地の張り合いにアレンジしました。

短いタイムスケールでのシーンの切りかえと、メタ視点への切りかえを合わせました。サーバー上でのAI同士のやりとりは視覚的ではないのでメタバースワールドでの出来事にしようかとも思いましたが、内容と関わりが薄いのでやめました。意地の張り合いとしてある程度予測できる展開になっているので、そこで読み手の気を引けたらと思います。

メタ視点に逃げてオチにする癖があるので、これが長編を書けない原因なのだなと自覚しました。

参考文献:『今昔物語集 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典』(角川ソフィア文庫)

文字数:314

課題提出者一覧