梗 概
あらゆる透明な幽霊の複合体
# ログライン
小説好きの青年がAIと協力して文学賞を目指す話。
# ターゲット層
自分
# あらすじ
1. 因果
・小説執筆が趣味の大学生・春戸は、大学で友人もできないまま一年が経とうとしていた。
・ある日、「会話ができる」という手のひらサイズのロボット「GSN-1」を見つけて、興味本位で購入する。
2. 修羅
・春戸は苦労してGSN-2を組み立てて「シュラ」と名付ける。
・「シュラ」との会話は意味が通じなかったが、意味の分からなさが逆に面白いと感じて、シュラとの会話を小説化する試みを始める。
・「流れ星文学賞」ではAIを用いた小説でも応募できることを知り、シュラと共に賞を獲ることを目標にする。
3. 虚無
・「流れ星文学賞」では、有名大学の長谷教授のチームが、実際に小説を書くAIの開発を目指していた。春戸はその研究を参考にする。
・生成精度が悪いため、大量に生成した中から良い文章を選んでつなぐ戦略を採用する。しかしその作業は苦痛だった。
・胸に物理的に穴の空いたロボットが孤独に悩みながら小説を書く話を書き上げて応募したが、選考通過はできなかった。
4. 照明
・春戸は大学を卒業して、IT企業に就職。
・SNSで、GSN-1を使って小説を書こうとしている人たちとつながる。
・新型「GSN-2」が発表。精度が高すぎるために公開されないとの噂が流れたが、無事発売される。
・アップデートしたシュラとの会話は、人間の手直しは必要だが、200字程度なら意味が分かる。
・春戸は、AIをあらすじに使用して本文は自分で書くことを思いつく。大正時代にからくり人形がベストセラー作家になる小説を書いてネットで公開する。
・出版社の社長を名乗る怪しい人物からDMがくる。
・実際に会ってみると善い人だった。電子書籍として出版される。
5. 無色
・電子書籍は売れなかった。さらに会社では嫌な上司の部下になってしまう。
・パワハラを受けた春戸は休職。
・小説も書けなくなる。シュラも電源を切って放置。
・「流れ星文学賞」に応募する作品は書けなかった。
6. 集積
・春戸は小説執筆を辞めようと考えていた。
・メンタルクリニックで、同じように悩む人達と出会う。
・「AIが小説を書く」のではなく「人間がAIと小説を書く」べきだと気づく。
・AIと小説を書くためには、まずは人間を、自分自身を、創作を、より深く理解しなければならないと考える。
・今回で賞を逃したら小説執筆を辞めると決意。
・「GSN-3」が登場。アップデートしたシュラで小説を書き始める。
7. 命題
・今度は本文の一部にも取り入れる。
・孤独な人間が胸に穴の空いたロボットと協力して作家を目指す小説を書いて「流れ星文学賞」に応募。
・グランプリは逃したが、佳作に入選する。
8. 心象
・SNSでライバルたちから祝福の連絡が入る。
・GSN-4が発表されるというニュース。春戸はシュラと次作の構想を練り始める。
文字数:1185
内容に関するアピール
悩みながら企画書を作っていましたが、「そろそろ自分の書きたいものを書いてもいいのではないか」と思い立ち、それまで書いていた物を全て捨てて〆切の二時間前から書き始めました。
内容は「もしGPT-2が小型ロボットとして発表されていたら?」というコンセプトの歴史if小説、あるいは半自伝的小説です。私の経験をベースにしつつ、多少脚色しています。小説を書くのを辞めようとしていたのは本当です。
自分が百万部買って読みたい小説なので、百万部売れます。
文字数:218
あらゆる透明な幽霊の複合体
第一章 因果
胸に穴が空いたような感覚って、誰にでもあると思うんだよね。大事な人が天国に行ってしまったとか、友達と別の大学に行って疎遠になってしまったとか、眠れない夜にひとりぼっちでワンルームの天井を見上げたときとか。
あとは、スーパーでお母さんを探している様子の子どもに声をかけられなかったとか、道を歩いていたら向こうからやってきた女の人が避けるように道の向こう側に渡ってしまったとか。いや、別に子どもを誘拐したり、変質者みたいなことをしようなんて思ってないんだ。でも「誰かからそう思われてしまうかも」とか、「そう思われているのかも」とか、そういう「かもかも」精神がスプレー型の浴槽洗剤みたいにしゅわしゅわと効いていって、つるつるだった白壁にいつの間にか真ん丸の穴を空けてしまうんじゃないかと思う。
僕の場合、その超強力泡プッシュしてくる主犯格は、大学に入って一年が経つのに学食で誰かとご飯を食べたことがないというささやかな事実なのだと思う。
高校のクラスメイトは同じ大学にいなかったし、サークルの勧誘も「僕は勉強をしに大学に来たんだ」というプライドから全て無視したし、入学初っ端に開催された学科合同の合宿も風邪を引いて行けなかったから、お友達グループの形成の輪には入れなかった。
学食で一人飯を食ってるやつに話しかけるような人物は、小説や漫画やアニメの中にしかいない。それは学食で一人飯を食ってるやつが、小説や漫画やアニメを求めているからだ。誰かが心に穴が空いていることに気が付くと、その穴埋めをする職人がどこかにいて補修してくれるのである。でも完全には埋まらないから、また補修する。補修を繰り返していくうちに、いつの間にか本当に穴を埋めるために必要だったものを見失っていく。
世の中は需要と供給で回っている。補修職人がしてくれるのは、あくまで補修なのだ。少ししたらまた穴が空くようにしておかないと、仕事がなくなってしまう。だから穴を埋めてもらう側ではなくて、せめて穴を埋める側になった方がいい。補修作業なら何度も見てきた。自分だってできる。自分で自分の穴を補修できるようになれば、コスパがいい。いずれは補修の腕が上がって、自分で自分の穴を完全に埋めることも不可能ではないかもしれない。
そう、自分の穴を一番よく知っているのは自分だけ。でもサイズ感も、縁のなめらかさも、温度も自分には分からない。ジグソーパズルのピースみたいな形をしているかどうかも分からない。そんなもの他の人には到底分かりっこない。友達とか彼女とかネコとか、そういう自分でないものを押し込んでみても、結局は三流補修職人とやってることは変わらないのかもしれない。
僕、春戸はそうやって小説を書くことが趣味になっていった。
その日、僕はノートパソコンを開いて通販サイトのNyanyazonを眺めていた。期間限定セールが開催されていて、電子インクの電子書籍リーダー欲しいなーとか、小型の電子メモ帳も小説を書くのにいいかもなーとか考えていた。もちろん古本チェーン店が遊び場の僕には、そんなものを買う余裕なんてなかったのだけれど。
そこでふと画面の端に、愛嬌のあるフェイスのロボットを見つけた。パッと見はおもちゃかなと思ったけれど、サムネイルに記載された「会話ができる!」の赤い文字に補修職人の匂いを感じた。
リンクをクリックすると「会話ができるロボット GSN-1」という商品タイトルが表示されて、商品紹介画像が画面に並んだ。手のひらに乗るくらいのサイズで、テレビに手足が生えたようなデザインをしている。前面のディスプレイには、デジタルな顔が表示されていた。手足は動かないように見えるが、本体下部にマイクとスピーカーがあり、これを介して会話ができるらしい。
別にこいつがいれば友達の代わりになるなんて思ったわけじゃない。子どもの頃、モンスターが表示されるちゃっちい歩数計デバイスが好きでずっと持ち歩いていたこととか、そういうノスタルジーを刺激されてもいない。言うなれば、言葉を扱う者としての純粋な興味だ。人間ではなく機械が言葉を発するという神秘。それはSF作品で長年描かれてきたロマンであり、宇宙にも海底にも進出した人類が未だ未開拓の最後のフロンティアなのである。
ポチッたフロンティアは、二日後に僕のワンルームに届いた。早速、箱を開封してみる。中身は基盤とビニール袋に小分けにされたパーツ類。あとは給電用のUSBケーブル。なんだか子どもの頃にプラモデルを作っていた記憶がよみがえる。
海外企業の製品なので、もちろん説明書は英語だった。なんとかなるだろうと高を括っていたが、ところどころパーツと適当な矢印の絵しか載っておらず、さじを投げかけた。
格闘すること3時間。なんとかGSN-1は完成した。
る. 背面の起動ボタンを押すと、前面のディスプレイに初期設定画面が表示された。もちろん英語である。どうやら最初に名前をつけるらしい。僕は一瞬考えてから「SYURA」と入力した。日本語なら「シュラ」。僕の名前が春戸だから合わせて「春と修羅」。宮沢賢治の詩の名前になる。我ながら良い名前を付けたと思った。
早速、シュラとの会話を試してみることにした。説明書には詳しく書かれていなかったが、とりあえず話しかければいいようだ。
「こんにちは」
「……」
無反応である。長らく他人と話していないせいで元気が足りなかったか。もう一度試してみよう。
「こんにちは~!」
「……」
違ったか。腕組みして考えてから、一つの仮説にたどり着いた。こいつ英語しか話せないのではなかろうか?
「ハロー……?」
「……」
絶望的なスピーキング能力では認識すらされないのか。
肩を落とした僕は、念のため「GSN-1 会話 方法」で検索してみることにした。するとなんということだろう。確かに英語でしか会話できない仕様だという情報だけでなく、有志が日本語化してくれている情報まで手に入ってしまった。
早速、サイトに書かれた手順でダウンロードして、話しかけてみる。
「……こ、こんにちは~」
「こんにちは」
しゃべった! 素晴らしい。まるで宇宙人とのファーストコンタクトみたいな感動がある。
「君の名前は?」
「わたしは、シュラ。よろしく」
すごい。僕は未来のガジェットを手に入れてしまったかもしれない。
「君には何ができるの?」
「……黄身の色は黄色です」
おっと。雲行きが怪しい。
いろいろ調べてみると、あまり流暢には話せないようだ。
でも僕には思いついたことがあった。
「『惑星』をキーワードにして小説を書いてみて」
「惑星を守るために人類と協力していたが、自分で育てるために、わざと小さな花をつけることもあった。そして、ある日、自分で宇宙線などの衝撃に弱い花をつける惑星に訪れたとき、なぜか彼女は宇宙線などの衝撃に耐えられなかった。」
なんかいい。微妙に不自然さのある日本語だが、逆に趣がある。
もしかしたらシュラと一緒に小説を書いてみたら面白いかもしれない。僕がそう考え始めるのに、あまり時間はかからなかった。
僕の心の穴を、僕自身が埋められるかどうかなんて分からないのである。他の人たちは、また別のものでそれを埋めようとしているし、それで満足している人もいるけれど、どうせそれは見せかけでしかない。
だったら僕の穴を僕とシュラが、春と修羅が補修したっていいはずだ。
「僕と一緒に穴を埋めよう」
「死体は桜の木の下に埋めてください」
僕の相棒は、いいセンスをしている。
文字数:3085