梗 概
インドの神様に会いに行く
雑誌『とらべーる』編集者のヤマギワは困っていた。看板企画の担当作家が大怪我をして身動きがとれなくなったのだ。次回の締め切りは1ヶ月後。10ページ、何かで埋めないといけない。
あいつに頼むしかないか。うさんくさい話ばかり持ち込んでくるライターのセリトモ。つきあって10年になるが、9割はボツ。LINEを入れると翌朝に返信が来た。
「インドに神様がホントにいるらしいですよ。会いに行きませんか(変な象の絵文字)」
数日後、ヤマギワはインドにいた。本当に神様に会えるのか?
妙に自信たっぷりなセリトモは、心配しすぎなんですよヤマギワさんは、などと言ってくる。お前は責任が無いからそんなことが言えるんだ、と突き放すと、じゃあ行くのやめますか?とニヤニヤしている。
インドの夏は暑い。乗合のワゴンは人をぎゅうぎゅうに詰め込んで最悪の環境だ。あと10時間、こんな場所で耐えなければならない。ヤマギワは大きなため息をついた。
ワゴンを乗り継いでインド北部の山奥の村に到着。お祭りのように派手な飾りがそこらじゅうにある。神様がいるという洞窟の前には長蛇の列。入場料もとられるようで、すっかりヤマギワはうんざりした。セリトモは目をキラキラさせて写真を撮ったり動画を回したりしている。
「良い記事になりますよ。これだけ並ぶのは魅力のあるものが待っている、ということですよ。何より、見たいでしょう?知りたいでしょう?洞窟の中に何があるか。よかったですね、ヤマギワさん」
そう言ってセリトモはバチーンとヤマギワの肩を叩いてきた。
列に並んで2時間。洞窟の奥に辿り着いた。金ピカで荘厳な扉がある。係員に呼ばれて1組ずつ入っていく。ヤマギワはテレビで見たネパールの少女の生き神を思い出した。ここもそんな感じかもしれないけど、道中を描くだけでも何とか10ページいくかな、などと考えていると、係員に呼ばれた。
扉の中は真っ暗だった。後方でズシーンと音を立てて扉が閉まると、光に包まれた。部屋は思ったよりも広い。ゆっくりと、頭上から何かが降りてくる。眩い光を放つ、大きな象だ。人間のようにあぐらをかいて、ハスの台座に座っている。象は閉じていた大きな目をクワっと見開くと、大音声で語りかけてきた。
「ヤマギワ、セリトモの好奇心を活かせ。セリトモ、ヤマギワの慎重さを学べ。二人が協力すれば、成功する」
ヤマギワは、セリトモが動画を回し続けていることに気づいた。何かを言われるのではとビクビクしたが、象は、音もなくスッと消え、暗闇が再び訪れた。
二人はしばらく呆然とお互いの顔を見つめ合った。係員に呼ばれて、扉を出ていく。ヤマギワは、セリトモに動画を見返すように頼んだ。写っているのは、暗闇だけだった。二人はもう一度顔を見つめ合って、爆笑した。これは本当に良い記事になる。すぐに編集長に電話しなくては。
文字数:1186
内容に関するアピール
慎重でネガティブ思考のヤマギワ、好奇心旺盛でポジティブなセリトモ。二人はこれから世界中を冒険して雑誌『とらべーる』の企画をヒットさせていきます。オーストラリアの砂漠で恐竜の生き残りに会ったり、中国の山奥で仙人に会ったり、ロシアのツンドラで地上絵を描いてUFOの集団を呼んだり。そのすべてが本物で、でも証拠は撮れなくて。セリトモの書く文章は毎回むちゃくちゃで、ヤマギワはそのリライトに苦労して。
なぜ二人は、本物の神様や恐竜に出会えるのか?セリトモは「僕一人で行っても、絶対に出会えないんですよ。ヤマギワさんが鍵を握っているんです」と意味深に笑います。
「自分とまったくちがう思想」というお題を、異なる思想を持つ人物を二人登場させることで表現してみました。実は二人とも僕自身なので、お題には沿えていないかも。ただ、違う性格のキャラクターを登場させると、話が展開しやすくなることを学びました。
文字数:395