梗 概
中年探検団とメソポタミアホテルの謎
中年探検団は中年男女だけが入れる旅行サークル。メンバーのヒロシ、ワタル、メイ、サビーの4人は、コンセプトホテルめぐりの一環として、山梨県の奥地にある古代文明ホテルズグループのメソポタミアホテルにやってきた。古代文明ホテルズは全国に展開しており、グループのホテルに100回宿泊した客にメソポタミアホテル特別室でのタイムトラベル体験を提供していることが売りのひとつだ。4人は数年かけて各地のホテルをまわって、ようやく100回宿泊し、特別室の入場権を獲得したのだ。
メソポタミアホテルの周辺は小さなテーマパークのようになっており、再現された市街地の散策や、ジッグラトでの神話ミュージカル観劇、食堂での古代風の食事、学校での粘土板授業体験などができる。4人は古代の衣服やアクセサリーを着用して気分を高めつつ、すでにタイムトラベル気分になりながら各所を堪能した。
古代文明ホテルズの奇妙な噂は数年前にヒロシのもとにもたらされた。爆発的に会員数を伸ばしており、100回ごとのタイムトラベル特典を経験すると、もう他のホテルには泊まりたくなくなるほどだという。タイムトラベルがどういったものだったかは口外してはならないことになっているようで、ネット上にも詳しくは出ていない。旅行好きな妻に誘われて、たまたまメソポタミアホテルに宿泊したことのあるヒロシは、そこで見かけたタイムトラベル後と思われる集団の恍惚とした表情を思い浮かべた。その時は、100回も宿泊して獲得した特典だから、映画にせよ、VR体験にせよ、素晴らしいエンタメを経験したのだろうと思っていた。だが、あの表情の原因は別のものかもしれない。すぐに同僚のワタル、メイ、サビーに話すと、だからメソポタミアなのかも、とサビーが言い出した。記録としては、あそこが最古だから、と。ワタルはすぐに準備しよう、出張扱いにすればいい、とニヤリと笑った。
22時。タイムトラベル体験が始まる。特別室は地下4階にあった。他に2グループ、10人ほど同行者がいる。最初に秘密誓約書を記入する。体験の一切を口外しないこと。署名は小さな粘土板に葦のペンで記載する。楔形文字ではなくカタカナで良いようだ。あくまで儀式的なもので、朝までに焼いてお土産として渡されるものらしい。
グループごとに分かれて、「タイムマシン」に乗り込む。大きなサイコロ型のポッドのようなもので、四方はガラス張りだ。シートベルトを着けて待っていると、荘厳な音楽とともにポッドが揺れ出した。四方の景色がゆっくりと、ぐにゃりと曲がり、床が抜けた。足元遥か下に、ジッグラトと市街地が見える。裸眼なのに立体的に感じられる。ポッドが降下していくと、行き交う人が確認できた。気がつくと、甘酸っぱい匂いが立ち込めている。慌てて用意した医療用マスクを着ける。メイがサンプル採取用の小瓶を取り出している。思った通り、アヘンだ。
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内容に関するアピール
使い古されたアイデアということで、タイムトラベルを取り上げてみました。博物館に行くと、古代の再現図やCGがありますが、当時はどんなだったろう、と想像が膨らみます。タイムトラベルで実際に行ってみたいなあ、と。先日、ビッグサイトに行ったのですが、改めて見るととても巨大な建造物で、未来人が発見したら「当時はどんなだったろう」と私と同じふうに思うかなあなどと思いました。あ、そうか、未来人になってタイムトラベルして来たつもりになればいいのか、とよくわからないことを考えたりしました。
話が逸れました。最も新奇な話ということで、タイムトラベルかと思ったら映像と麻薬でした、という話になりました。この後、麻薬取締官の4人が力を合わせて逮捕まですったもんだするのですが、どうにも面白い展開にできず、アヘンの匂いに主人公が気が付くタイミングで、さっぱりと終わりにすることにしました。
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