梗 概
東尋坊の用心棒
「推し」が消えた。ある日突然、SNSにたった一言、「さよなら、楽しかったよ」という文字を残して。
三崎の「推し」は、『神がかり』という地下アイドルグループの「白鷺みくる」だ。親も兄弟もなく何の取り柄も不良になる根性もない孤独な三崎が、空虚なままに生きていた三崎が、二十歳で「白鷺みくる」という存在に出会い、推し活という生き甲斐を得た。あれから9年、「推し」のためだけに生きてきた。推しを推すことだけが、生きている証だった。「推し」が消えたということは、生きている証が消えたということで、三崎は死んだも同然ということになる。三崎は虚無に包まれた。毎日部屋に引きこもり、これまでの『神がかり』の動画を見て買いためたCDを聞いて過ごした。そして、『GOGO!東尋坊』という楽曲の「会いたくなったら、東尋坊!GOGO!東尋坊」というみくるの歌声に導かれるように東尋坊までやってきた。生きている証がないのなら、死んだも同然ということ。みくるの歌声に包まれて、虚無な現実とおさらばしよう。ありがとう、みくる。みくると出会って幸せだったよ。三崎が崖の上に立ったその時、「ちょっと待った!」と声が。ゲートキーパーと呼ばれる自殺防止ポランティアの人に見つかってしまったのだろうか。振り返ると、妖艶な(胸の大きな)美女が腕組をして立っている。三崎の人生において、女性から、しかもこんな美女から話しかけられた記憶はない。ピンヒールの足音を響かせて美女が近づいてくる。そして、三崎の腕をグイっと掴み、三崎の体を引き寄せて耳元で言った。「どうせ死ぬ気なら、生まれ変わったつもりで私の用心棒にならないか?」
女性は商店街のカフェでカフェラテを上品に飲みながら、「わらわは、ミミ王女じゃ。タコ星のペペ王の長女にして王位継承者である」と話し出した。自己紹介の内容からして、ちょっとヤバい系の人かもしれないと警戒する三崎。すると、女性の腕が伸びてきて指先が三崎の顎を撫でた。その指先がにょろりとタコの足に変化した。ミミの正体は、人に擬態した宇宙人だった。
タコ星でクーデターが起きた。ペペ王の弟で軍組織のトップであるケケの反乱だった。ミミ王女は、たった一人地球に逃れた。「地球に来たのは、十年前に地球へと旅立った婚約者・ルルを探すためじゃ」。地球の東尋坊に不時着した際、ミミ王女テレパシーでルルに東尋坊の座標を送っている。故障した宇宙船を修理しながら、ミミ王女はルルの訪れを待っている。群衆のアイドル的な存在だった武将・ルルを連れてタコ星に戻り、ミミは叔父でもあるケケを討つ。それまでの間、ひとりでは心もとないので三崎を用心棒として召し抱えたいというのだ。報酬は宇宙船で寝泊まり三食付きと「なりたい自分に生まれ変わる」こと。なりたい自分というのは、タコ星のテクノロジーで、三崎に新しい肉体を与えてくれるということらしい。三崎は、これまでの人生を振り返る。早逝した両親、たらいまわしの親戚の家、透明人間のようだった学生時代。幸せだったのは、みくるに「神の子たち」と呼ばれてファンとして愛された時間だけ。愛されたい。もっともっと自分は愛される存在になりたい。だが、運動神経ゼロで特技も何もない三崎に用心棒など務まるのだろうか? 「適した体を与えてやるから大丈夫だ」とミミ王女。みんなから愛される自分は、きっと大谷翔平のようなアスリートにしてベビーフェイスな容姿なのだろう。素晴らしい。新しい愛される自分に生まれ変わって、人生をやりなおそう。三崎は、ミミ王女に従者の誓いを立て、ミミ王女の宇宙船で肉体改造を受ける。しかし、王女が与えた「愛される自分」の姿は、愛される大谷翔平ではない。犬だ。三崎は愛くるしいコーギーの姿にされてしまったのだ。「地球で女王の犬といえば、コーギーなのだろう?」とミミ王女は満足気だ。
こうしてコーギーになった三崎の第二の人生、東尋坊での用心棒生活が始まった。毎日のパトロール、王女の警護。そして、東尋坊に身を投げにやってきた人間たちを崖から引きずりおろす作業。崖下には王女の宇宙船が特殊フィールドで隠されている。投身者が落ちてくるとフィールドが損傷してしまう。自殺志願者を必死に引き留めるコーギーの姿は、たちまちSNSなどでネットに拡散され、テレビ取材が訪れる。たちまち三崎は人々から愛され人気者に。「どうじゃ、そなたの願いが叶ったじゃろう」とミミ王女はご満悦だ。でもなんだか違う、何かが足りない。「推し」だ。「そなたの推しは、わらわじゃろう?」とミミ王女は言うが、ちょっと違う。契約によりミミ王女を命を懸けて守ると誓ったが、ミミ王女は三崎の「推し」ではない。
そんなある日、三崎は東尋坊の崖の上で、「推し」・白鷺みくると再会する。
文字数:1955
内容に関するアピール
すみません、「結末」がまだ決まっていません。いつも、書きながら結末を考えています。毎回実作では、一度書いてみて、結末が決まったら書き直す、という作業をしています。効率が悪いなと思います。まずタイトルを考えて、キャラクターと設定を考えて、それからストーリーという工程が間違っているのかもしれないとアピール文を書きながら思いました。次の課題は、結末から考えてみようかな。
今回のテーマ「シーンを切り替える」ですが、脚本を書く時は「ハコ」というものを作ってシーンの構成を考えます。ですが、小説を書く時は、地の文を書くことに必死でシーンの切り替えがおろそかになっているような気がします。まだ結末すら決まっていない今回の作品ですが、シーンの切り替えを意識しながら実作に挑みたいと思います。
文字数:338