梗 概
環境保全に向けた害獣駆除のお知らせ
203x年1月、米国大統領が全世界に向け声明を発信した。「地球はさながら重度のがん患者のようである。我が国は宇宙の隣人からの助言を受け、立ち上がることにした。宇宙の隣人と共同で、地球を救うための大手術を行う。これは大きな犠牲を伴う。しかし必要な行動だ。神が人類に与えた最後の試練で、乗り越えることで真の楽園が実現されるだろう。アーメン」
声明の1時間後、アメリカは全世界に総攻撃を仕掛けた。虚をつかれた各国は大打撃を受けた。続けて、宇宙船が各国の上空に現れた。宇宙船はレーザー攻撃を始め、止むことがなかった。弱い国から順に降伏していった。最後に残ったのは中国だった。中国は極秘に開発していた巨大レーザー兵器を起動させ、宇宙船の撃墜に成功した。しかしそれまでだった。火力や数量は宇宙のそれとは数段の違いがあり、辛うじて2隻を沈めた後、中国も降伏した。
わずか3週間程度だったが、被害は凄まじく、全世界の人口が125分の1、6400万人程まで低下した。各国家は解体され、五人のアメリカ人と五人の宇宙人の「最高指導者」達による統治が始まった。統治13ヶ月後、アメリカ側の最高指導者が心臓麻痺で急死。死因を不審に感じたアメリカ側は、徹底的な調査と原因究明を指導者会議で求めたが、会議内で一人また一人と胸を押さえ倒れていった。地球は宇宙人の支配下となった。
残された人類は、グループ分けされ、順に貨物列車に乗せられ運ばれていった。列車に乗せられた乗客は口数少なく怯えていた。歴史の教科書で見たあの列車。私もガスを吸って死ぬのかと。
列車が停まる。目隠しをされ、一列で歩いていく。目隠しを外され目を開けると、劇場だった。席に座らされ、中央に赤いマントを被った宇宙人が現れた。パチンと指を鳴らすと大型の白いスクリーンが降り、映像が投影される。昔暮らしていた家族、自分の幼い頃の映像が、断続的に映される。人々は失った家族を思い涙した。他も自分と同じ映像を見ている?と疑問に思い周囲を見渡す者もいた。皆、涙を流している。まさか別々の映像を見ている?どんな原理だ?と疑問が湧くも、ピンク色の煙が劇場内に放出されていく。それを吸うと頭が朦朧とし始め、疑問も何もかも、どうでも良くなっていった。観客は、涙を流し幸せな顔で、永遠の夢に落ちた。
劇場に、大きなノコギリと袋を抱えた宇宙人たちが入ってくる。宇宙人たちは、手際よく、息たえた人間の解体作業を始める。宇宙人は、隣の作業員に話しかける。「なぁ、害獣を駆除するのに、長たちは、なんで手を組んだり、眠らせたり、面倒くせえことする。お前上と繋がりあるだろ。知ってるか」「さあ。私わかんない。でも相手も害獣とはいえ、一つの種でしょ。尊厳ガイドラインに沿った駆除みたいよ」「船からの攻撃もガイドライン内か?」「効率性とのバランスじゃない?」「なるほどね・・・」ギコギコ。ノコギリの音が劇場に響く。
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内容に関するアピール
世界で起こっている異常気象のニュース、環境破壊の状況など、環境問題の深刻さが年々増す中、環境保全を訴える発言や人々は、世間で疎まれているような風潮すら感じ、背筋がスッと寒くなるような、重苦しい危機感を感じています。
そんな中、我々が本当に変わるには強烈な外圧しかないのでは?という思いがよぎることもあります。ただ、もちろん、こんな未来が来てほしくはありませんが・・・。
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