環境負荷の高いあなたには出産する権利はない

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梗 概

環境負荷の高いあなたには出産する権利はない

2042年、気候変動による食糧危機が深刻化し、各国のCO2排出量に応じた人口の制限が国際的に合意された世界。各国は「環境負荷スコア」に基づいて子供を作ることができる夫婦を決定。それにより出産は上位階級の特権となる。さらに、途上国は口減らしや人工中絶などによって出産を抑制、あたかも排出権取引のように自国の出産権を他国に販売することで一部の支配階級が潤っていた。

 

主人公「灰」 は、かつて生まれるはずだった妹を環境負荷スコアによって失った過去を持つ。彼は、その歪んだ社会への復讐心から、ハッキング技術を駆使し、富裕層の環境負荷スコアを不正に操作する犯罪に手を染めていた。灰に依頼をする富裕層は、法外な報酬と引き換えに「子供を持つ権利」を手に入れる。

しかし、灰はスコアシステムに深く潜入するうち、食糧危機は現実にはなく、社会秩序を維持するために各国政府が協力して虚構を演じていたこと、環境負荷スコア制度はその嘘を維持するための巧妙な道具に過ぎなかったという真実に辿り着く。真実を知った灰は、復讐の矛先を社会へと向ける。

 

一方同じ頃、政府官僚の「一条サユリ」は、環境負荷スコア制度に疑問を抱き独自に調査を進める。彼女も捏造された食糧危機を前提に、社会を管理・統制するための政府の恐るべき計画を知る。

 

偶然知り合った灰と一条は協力して、政府が管理する巨大なフードプラントに侵入し、厳重に保管された大量の食料備蓄を発見する。

 

灰はフードプラントの制御システムをハッキングし、隠蔽されていた食料備蓄を全世界に向けて公開する。同時に、彼の仕掛けたプログラムによって、政府がこれまで発表してきた食料生産量に関する虚偽のデータが、世界中のメディアに暴露される。

世界は、突如として真実を突きつけられ、大混乱に陥る。長年信じてきた食糧危機は政府による嘘であり、環境負荷スコアによる出産権制度もその欺瞞を隠蔽するためのものだったことを知る。

すべてを終えた灰は、再び姿を消す。彼の行動は犯罪ではあったが、人々は真実を知り、既存の社会システムへの疑念を抱き始める。

環境負荷スコア制度は廃止され、人々は嘘のない新たな社会の構築に向けて動き出す。杯の起こした波紋は、社会に変革の兆しをもたらす希望となる。

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