梗 概
ゼノ・ストラテジーム – 異星間情報戦争
目的のためなら平気で嘘をつく敏腕PRプランナーである石崎は、重要なプレゼン直前に謎の光に包まれ宇宙船に連れ去られる。
石崎をさらったのはエリダヌス座ε星系の惑星「アクアリア」の知的生命体であり、敵対する惑星「スティギア」との戦争において劣勢を挽回するために他惑星の生物の研究をしているところだった。
石崎はアクアリア人たちに実験体として解剖されそうになるが、とっさに「自分は地球の情報戦の第一人者であり、宇宙戦争の専門家だ」と嘘をつく。
互いの思考を読めるため嘘という概念を知らないアクアリア人たちは、彼の「嘘をつく能力」に興味を持つ。
そして、アクアリア軍将校であるゼファーは彼をスティギア人との戦争における認知戦略、情報戦を率いる戦略顧問として採用することを決定する。
石崎はスティギア勢力へのプロパガンダ戦を展開。
SNSに似た惑星間通信網を利用し、他惑星を含めた宇宙社会においてスティギアを孤立させるなど数々の情報工作を行う。
アクアリア人と同様に嘘という概念が存在しないスティギア人に対して、石崎の作戦は予想以上の成果を上げ、石崎はアクアリア人社会の中での信頼を少しずつ勝ち取っていく。
しかし、スティギア人もまた地球から「嘘の天才」として、ニューヨークの敏腕PR戦略家クライブ・ウィルソンを連れてくるのだった。
クライブの策略にハマり、石崎とアクアリア人たちは劣勢に立たされるも、石崎はゼファーをはじめとするアクアリア人たちと協力し、戦況を再度有利なものにしていく。
しかし、アクアリア人、スティギア人双方の間で「嘘」という概念が広まりすぎたことで、思考共有を基盤とする両惑星の社会システムに歪みが生じ始める。
さらに絶望的なことに、両惑星の上層部は情報戦略兵器としての地球人に興味を持ち始め、地球への侵略の準備を進めていた。
自分の嘘が招いた事態に、石崎は自身の生き方を見つめ直す。
石崎は、アクアリアとスティギア、そして地球の危機を救うため、究極の“嘘”、「壮大な宇宙叙事詩」を創作する。
石崎は、ゼファー、そして意外にもクライブの協力を得て、アクアリアとスティギアの祖先が共通の起源を持ち、遠い昔に一つの惑星で共存していたという壮大な物語を創作する。
この物語は、石崎にとっての最大の“嘘”であり、同時に最大の“真実”でもあった。叙事詩は架空の物語だが、石崎は両惑星の歴史や生態系を調べる内に、本当に両惑星は起源が同じだったことを発見していたのだった。
両惑星の住民は争いよりも共存の価値を見出し、地球侵略計画への支持も急速に失われていく。石崎の創作した物語は、アクアリアとスティギアの文化に深く根付き、両惑星の新たな神話となる。
そして、石崎はゼファー、クライブに見送られ、地球へ帰還する。
地球に戻った石崎は、PRの仕事に戻るが、かつて嘘で世界を染めていた男は、真実の物語で世界を照らす道を選ぶようになっていた。
文字数:1199
内容に関するアピール
私のSF小説家としての強みは、
1. 人間や社会の本質を問いかけるテーマの深さ
2. 実際の社会科学や先端技術にもとづいた確からしさ
3. SFファン以外でも読みやすいエンタメ性の高いストーリー展開
の3つの軸のかけ合わせとして磨いていきたいと考えています。
本作のテーマは、大きく以下の2つです。
1. フェイクニュース、プロパガンダ、情報操作という現代社会の課題を、宇宙戦争というスケールで描き出すこと
2. 「真実の共有しかしない宇宙人」と「虚構の構築によって発展してきた地球人」という対比的な設定でコミュニケーションの本質を問うこと
特に1つ目のテーマ「PR戦略による戦争・世論のコントロール」については、高木徹の「戦争広告代理店」に記されているようにリアリティがありつつ、ますますその課題は深刻になっている感じており、主要なテーマに据えました。
文字数:364