梗 概
(結婚における差別はなくなりました!)×3
【シーン1~3共通書き出し】
「僕たちの結婚がついに認められました!」
「本日、スタジオにお越しいただいたのは……」番組〝ザ・報道〟は始まった。
【シーン1同性婚】
スタジオのゲストは男性同士のカップル。いくつもの同性婚禁止違憲判決が出ながら、長いこと同性婚が認められなかった苦悩が語られる。
その後番組外のシーン。
同カップルが、今まで、他の変態と一緒にされるとか我慢できなかった、近親相姦とか獣姦とか、と語る。少なくとも肩を並べる、いや向こうが下だろ、と語られる。
【シーン2近親婚】
シーン1から百年時代が飛ぶ。
全ての遺伝病が、胎児の段階で遺伝子操作ができる技術が開発され、克服されたことにより、近親婚のデメリットがなくなり、法が改正された。
スタジオのゲストは姉弟のカップル。
その後番組外のシーン。
シーン1と同様に、他の変態と一緒にされること、たとえば獣姦とか、が苦痛であることが語られる。
【シーン3 獣婚】
シーン2から百年時代が飛ぶ。
動物と完全に会話ができる翻訳機が発明されている。この発明により、相手方の同意が確認できるようになるため、同意があれば動物虐待に当たらないということになり法が改正された。
スタジオのゲストは男性と雌犬。二人で喜びを語る。
【シーン4】
シーン1の続き。実は時間軸が3→2→1 であることが年表によってわかる。
従って、シーン1・2で語られていた差別は法的にも不当な差別であることが読者に明かされる。
司会が、同性婚は21世紀ごろに権利を認めるよう声が上がり、諸外国ではとっくに実現していたにもかかわらず、日本だけ遅れに遅れてしまった、と語る。
ここで各性的少数者の差別が克服されてきた歴史が解説される。
獣婚合法化が一番早い理由は、やはりAIの進化に尽きる、と説明がある。ひとたびディープラーニングという基幹技術が開発されると、技術のブレイクスルーが起きたため。
近親婚はそれより少々技術的ハードルが高く、ゲノム編集のために狙ったところ以外の組み換えを抑制する技術と、デリバリーのためのナノマシン開発の技術が必要であった。
しかしながらこの両者は、硬性憲法という障壁がなく、近親婚も男女だし獣婚も男女なので、日本国憲法の両性の合意にのみ基づく、ということに違反しなかった。
出演しているゲストカップルは、シーン1で近親婚や獣婚に差別的な意識を持っていることが読者に既に開示されている状況で、それらに対する差別も良くないですよね、と善人を装ってコメントする。
【シーン5】
番組〝ザ・報道〟が開始する。
「ザ・デイ」と呼ばれる異星人が来襲した日から、地球がどのように変革したかを解説する。
全ての国家が解体され、法が全て作り直された件を語り、この日までひと文字たりとも変わらなかった日本国憲法が消滅したことを語った専門家が
「日本は、外圧に弱いんです」と締めくくる。
文字数:1197
内容に関するアピール
近年LGBTQの人権はようやく守られるようになってきましたが、
現在も残るタブーに関して、それがなぜタブーなのかを考え、
架空の技術によって飛躍するとそれが許される世の中が現れる。
一種の思考実験ですが、これがSFの醍醐味といえると思います。
お題の切り替えという観点で言えば、「同一のシーンから始まる」
ことでシーンを切り替える例として、同一の火事のシーンから始めて
視点を切り替えるという、映画「怪物」の例を参考にさせて
いただき、しかし私は時代を飛ばすことにしました。
時代を飛ばすだけではつまらないので、それを逆順にするトリックを
仕込み、そして逆転しうる理由付けを思考実験してみたものです。
この思考実験のおかげで、現代で最もタブー度の高いものから実現
してゆくという、面白い世界を構築することができた、と考える
ものであります。
文字数:358