第一章 まずいラーメンを売る方法
「新曲ができた」
「よし、聴かねぇ!」
物語はこんなむさくるしい二人の若者の会話から始まります。この会話からわかるように、二人は決して意気投合し、お互いを認め合い、高め合い、前に進んで行く間柄ではございません。
「そこを聴けや弘人」
「龍太の歌など全世界が求めていません、君はジャイアンと心得よ」
弘人氏が言うように、龍太氏の歌は決して上手いものではないです。この先のストーリーを少し言ってしまうと、龍太氏にミュージシャンとして大成する未来は待っていません。なぜそんなことがわかるかというと、私は未来を見通せる俯瞰的な視野を持っているからです。
申し遅れました。私、沈香地濃と申します。申し上げましたように、俯瞰的な視野を持っているので、この物語を語るお役目を拝命いたしました。
ここは弘人氏の自宅です。自宅、とはいっても弘人氏ご自身が所有するものではございません。つまり親の持ち物というわけですが、それでも通常日本語では自宅と呼びますね。自分のものではないのに、自宅。ちょっと詐欺的な単語ですけれど、まあこの先、詐欺的なお話がたくさん待っているので、こんなところで引っ掛かっている場合ではございません。
で、さっきから弘人氏は龍太氏に一瞥もくれず、何やらディスプレイに棒状のもので線を引いています。
「お前のブ少女も全世界が求めてねえわ」
「そこを僕は全世界が求めるように努力しているわけです。継続は力なり」
「そう、継続。あの駅前のラーメン屋、永藍軒。何十年も続いてるらしいけど、つまりどういうことかというと、二十年前も十年前も今日も明日もそしてこの先も、ずっと同じ味のラーメンを作り続けているラーメン屋ね、あそこは」
「クソまずい」
「そのとおり」
こんなところで意気投合しました。人間というものは、いや人間に限らないかもしれませんが、何かを称えるより、何かをけなす時に結束力を高めるものなのです。
弘人氏の向かっているディスプレイは液晶タブレット、通称液タブというもので、棒状のものは専用のタッチペンです。1024段階の筆圧感知機能を持っている高級機ですが、その機能に見合った作品が作られているかというと、龍太氏がブ少女と言っていますようにこう、いまいち萌えない感じです。弘人氏は、美少女同人誌を作成していますが、もっと言いますと男性向創作と呼ばれるもの、つまり極めて露骨に性的なジャンルの美少女同人誌を作成していますが全く売れておりません。
今、龍太氏は、弘人氏が持ち出した〝継続〟という単語を受けて、その継続を素晴らしく行っているが、ずっとクソまずいラーメン屋の例を出すことで、継続が力とは限らない、という主張を込めて皮肉を言ったわけですが、これは果たして弘人氏に伝わっているんでしょうか……。
「で俺は、そのラーメン屋に着想を得て新曲を作ったわけさ」
「まずいラーメン屋の歌を誰が聴くんだよ」
「違う、これは恋の歌だ」
「えー確認しますが、君は彼女いない歴=年齢だったよね?」
「いかにも。お前も同じだが」
「そんな人が恋の歌なんて作れるんですか?」
「出たよ、人類史で語り尽くされた世にも浅ましい考えが! 宇宙に行ったことがない人が宇宙の漫画を描けますか? 殺人したことがない人が殺人ミステリ小説書けますか? 的なやつ」
「そんな達成した人が人類史でもわずかな条件と比べないで欲しい」
「宇宙飛行士に比べると殺人した人は人類史にわんさかいるんだが?」
「パーセンテージの話だよ」
「だとしても、その彼女いるグループに入れなかったお前が、今まさに、エロ漫画を描いている。インサートしたことがない人間がインサートする場面を描いている。お前はOMKを見たことがあるのか!」
こうやって、低レベルの罵り合いをするのが二人の日常なんです。どっちもどっちですね。私の見解としましては、彼女がいたことがない人が恋の歌を歌おうが、OMKを見たことがない人がOMKを描こうが、別に構わないと思うので、理屈の上では二人とも援護してあげるべきなのでしょうが、私は俯瞰できるだけで介入できるわけではございませんので、援護してあげることはできないし、できたとしてもする気も起きません。
龍太氏は弘人氏の意向など無視して、エレキギターを手に取り、弦をはじき始めます。ここは弘人氏の自宅ですが、龍太氏は自分がミュージシャンであることを自意識にフィードバックするため、常にギターを持ち歩いているので、すぐに手に取ることができるんですね。さすがにアンプに繋いではいませんが、もし繋いでいたら、弘人氏の言う龍太氏のジャイアニズム性から考えて大変なことになるところです。
君はそうやってうつむいて
まずいラーメンをすすってる
君はいつも澱んだ丼だけを見て
僕に目を向けることはない
でも僕は知っている
君はほんとうは僕を好きだ
照れ隠しにわざとこの店を選んで
照れ隠しにわざとクソまずいラーメンを
照れ隠しにすすっているんだね
※ああ僕は嫉妬しちゃうよ
このクソまずいラーメンに
ああクソまずい
クソまずいラーメン……
※繰り返し
「すごい」
「どうだ、すごいだろう」
「童貞の願望のキモさが極まったのがすごい。今までで最高レベルだと思う」
「てめぇ……童貞の願望そのものな漫画を描いておきながら……女がそうやってハメた瞬間にああんっとか言って性奴隷になるわけないだろうが!」
私から言わせて貰えば、両者とも願望のこもった作品を著作しているわけですが、これらの著作物の問題点は童貞願望がこもっていることではなかろうと思います。問題は龍太氏の場合、作詞の技巧、作曲の技巧、発声の技巧の全てが低劣であることにあるし、弘人氏の場合は単純に絵が下手だからです。先ほど弘人氏は継続と言いましたが、第三者視点から見て、継続しても弘人氏の画力が向上した事実はありません。つまり件のラーメン屋と同じというわけです。
「地道に頑張ってはいるわけだから、宣伝に力を入れるべきなのかな……」
キモさの話をしていたはずなのに、全く関係ない話を始めるのは、つまり龍太氏の指摘に対しては完全な無視を決め込みますよという意思表示です。これを全く無意識にやってのけているうえ、読点の前後に全く繋がりがありません。何が〝頑張っているわけだから〟なんでしょうか。だから、という順接の接続詞の後には、頑張った努力の結果導き出される結論があるべきでしょう。おそらくこれは、読点の部分に〝自分の画力には問題がない、にもかかわらず売れないのはおかしい、このおかしな状態は画力以外に原因があるに違いないからそれを考えてみたところ宣伝が足りないのではと根拠はないが思いついたから〟という文章が省略されているんです。
そう呟いた弘人氏はウィンドウをWEBに切り替えて宣伝、という検索をちょっとだけしました。ちょっとだけ、というのがポイントでちょっとだけしてやめました。こうやって、ちょっとだけ、ちょっとだけと、気が散ったからと他の作業をしてしまうのが塵が積もって、弘人氏の作業は終始漫然としたものになっているんです。こんなことで、努力した、を自称していますが、努力に費やした実時間を細かく計算したら、それこそパーセンテージの話で悲惨なことになりそうです。
しかしながら、このちょっとだけの検索が仇となり、弘人氏のネットライフはしばらくの間、宣伝関連の情報商材の広告で埋め尽くされるようになってしまいました。チャート式最新宣伝の手法とか、漫画でぐんぐんわかる宣伝とか、AIを活用した宣伝の理論と実際とか、美少女センデちゃんが教える宣伝とか、弘人氏相手に広告しても、金のない人間に効果はありませんが、そのあたり無差別なのがネットの悲しさですね。
これはある方から聞いた話なのですが、その方はネットで検索して物干し竿を購入したそうです。ところが、その後ネットが物干し竿の宣伝で埋め尽くされてしまったそうです。一本物干し竿を買ったからといって、二本目が欲しいな、という人がどれだけいるのか、とその方はぼやいておられました。とはいえ、一本目の購入を完了したかどうかの個人情報まで広告屋に流されたらもっと問題ですから、これもネットの悲しさと言う他ありませんね。
そうやって数日間かけて、広告を反射的に脳内スルーする極意を弘人氏が会得しかけていたある日、龍太氏が駆け込んで来たんです。
「弘人! 天変地異が起こった!」
「あ? 君の曲が大ヒットでもしたんか?」弘人氏はまた漫然と絵を書いて視線を上げもしません。
「違う! 永藍軒に行列が出来ているんだ!」
ガタン、と漫画みたいな擬音を立てて弘人氏が立ち上がりました。
「それはこの世の終わりだ!」
むろん、この世の終わりというのは誇張表現でして、世の中選挙があれば民主主義は終わっただの、不祥事を起こした会社にこの会社も終わりだとか、マヤ歴の予言で世界が終わるだのと、終わったことにされているけど実際には終わっていない話が山のようにあるわけです。たかが一軒のラーメン屋の繁盛で世界が終わらせられるなら、ラーメン屋は核兵器をはるかに凌ぐとんでもない兵器になりうるわけですがもちろんそんなことはありません。
なので特に兵器ではないラーメン屋に二人は並びに行きました。
通常、おいしい店に並ぶ時人はだいたいウキウキして、あまりに長いとイライラしはじめる、というのが定番ですが、龍太氏の顔は青ざめています。
「もしそんな奇跡が起こったら……俺の芸術のアイデンティティの危機だよ!」
ここで〝俺の音楽〟と言わず〝俺の芸術〟と言ってのけることで龍太氏は自己称揚を図っています。最近音楽番組などでは〝ミュージシャン〟と言わず〝アーティスト〟と呼ぶことがすっかり定着しましたがそれと同じような意味合いです。
龍太氏の音楽と相対的に下げられているのが問題の永藍軒さんで、〝奇跡〟という言葉の大安売りです。聖書じゃあるまいし軽々しく使いすぎです。つまり奇跡という言葉を使うほど永藍軒さんが美味くなることはあり得ないというわけです。
一方弘人氏のほうは、特にアイデンティティの危機は迫っていないが、永藍軒に期待もしていない、というわけで、ウキウキを省略して最初からイライラしています。
結局一時間並んで、さらに着丼まで30分。着丼というのも最近の新造語ですが、なぜか水平展開されて通常の料理でも着皿とか言うかと思ったら言いませんね。ラーメンやカツ丼はいいけど餃子の気持ちも考えてあげてください。あらゆる食べ物は丼や皿に鎮座して、食べられる最期の刻を待っているのですから。
「へいおまち」
昭和の香りのする掛け声と共に丼が置かれます。彼らは昭和は知りませんが戦争のあった時代だよねと粗く理解しています。永藍軒の主人は昭和生まれですが戦争は経験していません。
「やっぱ、濁ってるよな……」
「昔食べた記憶のままだね。この絶望のようにどす黒い感じのスープは」
食べる前から悪口を言っています。食べ物は食べてから文句を言うべき、というのもまた昭和の価値観かもしれなくて、少なくとも永藍軒のラーメンはインスタ映えはしないことは食べる前から確認できました。
二人は同時に麺をすすり始めます。次の瞬間、弘人氏は顔をしかめ、一方龍太氏は喜びの表情を浮かべています。これだけで、彼らが感じた味覚を推論するには十分な情報です。ちょっと気の利いたAIならたちまち正しい結論を出すでしょう。
手がかりは龍太氏です。彼の音楽(語り部としてここで芸術と言う言葉は使用しません)のアイデンティティとやらに対する作用を考えれば一目瞭然です。龍太氏にとって、永藍軒のラーメンは不味くなければならないのです。
これが明確に不味い場合、龍太氏の音楽は守られます。音楽に人気が出るかどうかは別として龍太氏の自意識の中で守られます。というわけで、永藍軒のラーメンは不味かったのです。弘人氏が顔をしかめたのは、不味いものに正直に反応したというだけの付随的な情報に過ぎません。
しかしながら、彼らは昭和生まれの親に育てられたので、『お米一粒には88人の神様がいるから残すと罰があたるんだよ』と言い聞かされてきたので、米ではなく小麦主体の原料であろうとも、毎日をちゃらんぽらんに生きていようとも、変なところで真面目で、食べ物を残すことなどできないのでした。
彼らはラーメンをすすりながら、龍太氏の表現を借りればクソまずいラーメンをすすりながら(恋愛歌に大便を織り込むというのはどうなのでしょう)、周囲の状況を伺っています。
本当に美味しい店であれば、美味しいねーとか、ああ……という詠嘆とか、そんな言葉が観察されるはずが、皆さん無言でラーメンをすすっています。かつて二人が席が埋まっているのを見たことがなかった店内が、満席という異常事態になっているにもかかわらず、何の会話も聞こえて来ず、ただ席数ぶんの集団がひたすら麺をすする音が古びた店内に谺するばかりです。蝉の鳴く声のごとく各自の音が折り重なる集団となって暴力となる様子に似ています。
店を出て二人はようやく笑顔になりました。
龍太氏は引き続き音楽のアイデンティティが守られたという理由で笑顔です。
弘人氏は食べ続ける苦行から解放されて笑顔です。
「まずかったなあ……」そうやって苦を共にする若者たちの姿は青春の一コマと言って良いのではないでしょうか。野球部の千本ノックとかじゃなくてラーメンですけど。
弘人氏の家で、また龍太氏はギターをかき鳴らし始め、弘人氏はまた絵を描く努力と見せかけてまたちょっとだけという言い訳をしてグルメサイトで永藍軒を探してみました。
「おい。なんか変だぞ」
「ん? 何が?」龍太氏はギターを弾く手を止めません。世の中のためには止めたほうがいいのですが、弘人氏の家の中であれば実害は弘人氏一名だけだから良いのかもしれません。実害といっても、弘人氏は商材をスルーするより先に龍太氏の歌を完全スルーする極意を会得しています。
「はっきりとまずいと書いてある」
「まずい店がまずいと書いてあることの何が変なんだよ」
「ちょっと前までは、そういう正直なレビューが何か月かに一回くらい投稿されてるんだけどここ最近の投稿が凄いんだよ。毎日百個ぐらいレビューができてる」
「ああ、金で雇って書かせるやつか。いわゆるステマ。うまいうまいとかよくある文章コピペで星五つ無条件でつけるやつ」
「と言うのともちょっと違うというか……ともかく見てくれ」
〝↑この人単純ににまずいとか言ってるけど
まあ今の日本じゃ仕方ないかな……って感じ。
ものの味がわかる人って本当に少なくなったよね。
欧米に食文化が侵略されて、日本人の舌は退化して
しまったんだよね。
だから、ここのラーメンの美味さってのは、今や
限られた人しか理解できないんだよね。
漆黒の汁から漂う芳香が鼻腔を刺激して
食べる前から食道を伝って落ちてゆく。
一見茹ですぎと思える麺はその香りを
最大限吸わせるためなんだ。
そしてツルツルシコシコと対極の
喉に引っ掛かりながらぼそりぼそりと
落ちてゆく麺は少しでも長く食道に
滞留させるため。
この味がわかる間はまだ俺は自分を
人間と呼んでいいんだなと思わせる一杯。
ごちそうさまでした。〟
〝正気なんだろうか……。
あのラーメン食べて美味いと少しでも
感じる脳はその組成レベルから
大変な異常を来たしているから
今すぐ脳神経外科に行ったほうがいい。
大きいところね。MRIの撮れるとこ。
俺らはうっかり家族で行っちゃったけど
正直吐いたよ。家族全員家に帰ったら
ゲロゲロピーよ。トイレは行列になるし
子供はトイレ辿り着く前に吐いちゃうし
家じゅう下呂の香りよ。
嫁さんに申し訳ない。子供に申し訳ない。
これで家庭崩壊したらどうしてくれるんだ〟
〝あなたは下呂温泉に謝ってください。
風評被害ですよ。
そんな家庭なら早いところ崩壊したほうが
傷が浅くてよろしい。奥さんはそのほうが
幸せだと思いますし、この調子だとお子さん
たちもDNA鑑定したらどんな結果になるか
わからない気がしますね……。
ここのラーメンはDNA単位で細胞に訴求する
ものなんだよ。このパワーが感じ取れないどころか
悪く受け取るってどれだけ感受性歪んでるんだ。
食の神様が泣いてるよ〟
〝あなたの言う食の神様はトイレの神様の
間違いではないでしょうか……。
ここのラーメンは間違いなく
トイレの排泄物レベルの代物ですよ。
生産された時点で産業廃棄物というか。
存在価値というものがおよそ存在しない〟
〝トイレの神様を馬鹿にする奴は
植村花菜の爪の垢を煎じて飲む前に
おばあちゃんに轢き殺されてしまった
ほうがいいと思います。
ここのラーメンは本当に最高です。
食べるとべっぴんさんになれますよ〟
「……全部こんな調子?」
「全部こんな調子」
「ひどい」
この二人には多くの場合賛同しない私ですが、私もひどいと思います。グルメレビューというより口汚い罵倒合戦です。
「……こんなレビューのラーメン屋に誰が行くんだ?」
「しかし事実として行列はできているよね」
「それが不思議で。だいたい、ここまで褒めたり貶したりするような店か、ここ」
「絶賛する奴の気が知れない反面、貶すほうの表現も劇薬毒物レベルなような。毒物には毒物としての価値があるけどそこまでの価値もないよね。一応勿体ないから食べることはできたわけで。終戦直後のギブミーチョコレートの子供たちに与えたら喜ぶラーメンだとは思う」
二人は、問題に推論を巡らせるふりをしながら、永藍軒がいかに無価値な存在であるかを、心の奥底にひっそりと燃え上がっている激しい情熱で執拗に語ろうとしています。
グルメレビュワーたちとはまた違った方法で、彼らもまた永藍軒を貶そうとしているのです。
「あれかな。炎上商法ってやつ。漫画家や小説家がわざわざ炎上するような発言をするとかえって本が売れるみたいな……」
「そうかもしれん。でも一度食べたら二度と行かねえだろうが」
「どうかな……」弘人氏が異議を申し立てました。「いや僕は中学で剣道部だったんだけど。親の命令で」
「お前が武道に打ち込んでいる姿など想像つかないんだが……」
「何しろ人生の黒歴史だからね」
「いや俺たちラーメン屋の話してなかったか。まさか『麺~!』とか言わないよな」
的確なツッコミではありますが、後半が余計です。あのような作詞をする方はこういう日本語センスをお持ちなのです。
「これから繋がるんだ。実はとても嫌で嫌でしょうがなかったんだけど」
そうでしたね。一応周囲がやっているから部活動の時間中はちゃんと練習をするんだけど試合には一度たりとも勝ったことがありませんでしたしね。
「嫌なら辞めればいいじゃん」
「嫌な気持ちは深層心理にあったというか、後になって気が付いたことであって」
「なんかそれっぽい心理学用語持ってきた」
「卒業するまでは、剣道が楽しい、と自分に言い聞かせていた自分があって。〝最近ようやく剣道の面白さがわかってきたよ〟と仲間に語った記憶まであるんだけど、それは大変に芝居がかった行動であったというか、全然仲間でもなかったというか僕に仲間だと思われてさぞ迷惑だっただろうなとか。要は僕はあらゆるスポーツに致命的に向いていない」
「いまだにラーメン要素が出てこない……」
「今出すよ。結局、ここまで話題になったラーメンを食べるんだから、何かあるはずだという強い想いが、うまいと思い込ませているんじゃないか。まずいのに」
「つまり客は自分に言い聞かせてるのでは、と言うためにここまで過去を語る必要があったか? おかげでお前の恥部を知ってしまった」
「今自分で言って後悔してる」
このように、人は嫌いなものを貶すためなら、自らの古傷をえぐるような記憶を差し出すことすら厭わないのです。人間の怖さをまざまざと見るようなシーンですね。こんな凄いことをする存在を、私はホモサピエンス、人類しか知りません。もしイルカやシジュウカラの言語を解読したらこんなものだったりしたらそれはそれで怖いですが。
しかしながら、客がみんなそんな強い想いを抱いているからこそ、あの蝉の鳴くような静寂があったのかもしれません。
一週間ほど経ちましたが、永藍軒の行列はまだ衰える様子がありません。
「俺の芸術の危機はまだ去っていない」
「まずいのは確認しただろう」
「混雑していたら意味がないんだよ。こう、客の影もまばらな、どう見ても儲かりそうにない、薄汚い、うらぶれた店の隅っこで、二人で背中を丸めてすするラーメンだからこそ、そこに恋が芽生え、芸術が生まれるのであって」
「特に改装はしていないから、薄汚いというところだけは合ってるじゃん」
「儲かって儲かって仕方ない、店主が高笑いしてるような店に歌は似合わない」
「あからさまには高笑いしてないけど心の底で高笑いしてそうな映像が出たぞ。グルメYoutuberの取材映像」
二人はスマホの画面を覗きこみました。見覚えのある主人が笑顔で話しています。
『はい、もう愚直にここでラーメン作り続けて、正直心折れることもありましたけど、ずっと頑張って味を守り続けておりました。ようやくここに来て認められたということなんでしょうかね』
私から見れば、若干信用できない喋りです。これは弘人氏が〝努力を続けてきた〟と自認しているのと全く同じ構造を持っているからです。今でこそ店は流行っていますが、ついこの間まで弘人氏の美少女のごとく世の中に認められていなかったのです。
「なんか信用できないトークだね」
その美少女(龍太氏の表現によるとブ少女)を愚直に作り続けてきた弘人氏と意見が合ってしまうのは大変に心外です。
「ああ。愚直な頑固親父のふりをして目がニタニタしてるな。高笑いを隠している」
『美味しいラーメンを作る秘訣は何でしょうか?』
「このYoutuber本当に食った上で質問してるのかな」
『これは絶対に間違いないと思います。料理に愛を込めることです』
二人はまだしばらく動画を眺めていましたが、微笑レベルなだけで笑い声は特にないその映像から、どうしてもいやらしい高笑いを読み取ってしまうようです。見たいものしか見ない、行間を読むとか心眼で見るとかそういう言葉で修飾して表現されていないものまで読み取ってしまうのですね。
でもまた飽きました。龍太氏はまた壊れたレコードみたいに(というたとえも通用しない時代になってきました。アナログレコードというのは針を乗せて回転するんですが、盤面に傷があったりすると針がジャンプ、針飛びと言ったりしますが、その現象が起こって、過去に飛んで無限ループすることがあります。聴き続けると気が狂います)エレキギターを弾き続け歌っています。弘人氏はまた例の努力と称して絵を描くと見せかけて、またちょっとだけ病を発症してSNSを眺めています。
で、この後なんですが、彼らの運命が狂う事件が起こります。起こる理由は、(実効性はともかく、彼らの自意識上として)頭を使ったので少々疲弊していて、判断力が鈍っている点にあります。
ターニングポイントは、弘人氏のSNSに、この前うんざりするほど見てスルーした宣伝系の商材の残滓が流れてきた地点にあります。スルースキルを解除したところに流れてきたのでうっかり興味を持ってしまったんですね。
〝AIを活用した宣伝の理論と実際〟
興味を持ったといっても、たまたまリンクをタップした程度です。ですが、その先には、
〝この商品は現在取り扱いできません〟
という表示が踊っていました。
(なんだこりゃ……電子書籍のくせして品切れ? なわけないな。販売中止?)
しかし、レビューだけは読むことができました。
〝ちょっと反則級のチートですけど効果は抜群です。めちゃくちゃ売り上げ伸びました〟
〝正直他の誰にも読ませたくない! でも私の良心が、これがいかに凄くてヤバい本か、それをここに記させるものです〟
〝いやいやいやヤバイヤバイヤバイ。こんなヤバイ本いつ発禁になるかわからん。買えるうちに買えてよかった!〟
(そして本当に発禁になった……? しまった、前に目にしたときに買っておけばよかった)
逃した魚は大きい、と言いますが、逃したという事実は、弘人氏の脳のキャパシティに比してどうにも大きすぎ、それも判断を鈍らせていきます。
そして逃した自分を正当化する思考が働きます。逆に言うと逃さなかった者は不当だということです。そしてついさっきまで不当だと思っていた永藍軒の話が結びつきます。強引に結びつけます。有機的に、なんていうイメージワードを意味なく使っちゃったりします。
エウレカ! なんて子供のころ〝えらいひとのはなし〟系の漫画で読んだ単語が弘人氏の頭の中でスパークします。
「おい! 龍太! さっきの動画見てみろ!」
「いやさっき見ただろ」
「もう一回見るんだよ!」
弘人氏は目を血走らせながら早送りしてさっきのシーン、
『〝これは絶対に間違いないと思います。料理に愛を込めることです〟』を三回くらい繰り返します。
「これがどうしたんだよ! 壊れたレコードみたいに! 気が狂う!」
「何か気づかないか?」
「心の中で高笑いしてるってことだろ。目つきに表れて……」
「そこじゃない!」
弘人氏は再生のスパンをもっと短くしてその代わり五回くらい続けました。
『〝料理に愛を込める〟〝理に愛を込める〟〝リに愛をコ〟〝リニアイヲ〟〝アイ〟』
「だから気が狂う!」
「ここに暗号が込められているんだよ!」
出ました。陰謀論です。弘人氏は経験がなくとも淫棒論を描いていますがそれはそれとして。結局、永藍軒憎し――憎しといえど、ちょっとまずい程度の飯屋の話が二人で会話しているだけで憎しみを相互に大きく育ててしまいました――のあまり、行間を読みまくる行動に出ました。陰謀論には出てきた数字を適当に足し算引き算して悪魔の数字666を叩き出すものなど、いろいろな手法がありますがこれもその一種です。
「これは〝愛〟じゃない。音声だからうっかりそう思ってたけど〝AI〟のことなんじゃないか?」
「いや、さすがにそれはこじつけじゃないのか」
現時点では、まだ龍太氏のほうが弘人氏よりも正気を保っています。しかし、すぐに龍太氏も正気を失いますから見ていてください。
「証拠はもうひとつある」
正気を失った人が使う〝証拠〟というワード、論理的思考の産物ではないので論理的に突き詰めると怒り出しますが、前述のように私は介入はできないので面白いので聞いてみることにしましょう。
「永藍軒はこの〝AIを活用した宣伝の理論と実際〟なる文書を使った疑いがある。レビューによるとかなりヤバいものらしい。おそらく、あのレビューは全部AIが書いたものだ。そうやって話題の店だと偽装しているんだ!」
「だからそこ、発音繋がりでしかないわけだろ。しかも、あそこのおっさん、いまだに紙伝票だし、店ん中の張り紙も全部手書きでITを使いこなせるとはとても思えない」
「レビュワーの一人のハンドルネームを見ろ」
「〝大仏〟……?」
龍太氏の顔色が変わりました。
ここで大仏氏については、こちらで解説しますね。
二人が通っていた高校の、最初のホームルームの自己紹介で、「大仏と呼んでください」と言った方がいました。割と大柄で小太り、頭はきつめのグルグル天然パーマで、額の中央に目立つホクロがあるんで、割とぴったりの名称でした。あまりかっこいいあだ名とは言い難いですが、若いうちは特に、そして男子は特に、自分が進んで道化として振る舞う処世術を試すものです。
「ファザダイか!」
今龍太氏の割り込みが入りましたが解説を続けます。残念ながら、大仏氏の目論見通りにはいかず、代わりにこの方のあだ名はファザダイになりました。
彼は、一応クラスに打ち解けよう、という意思を当初は見せたものの、それは学校にいる間のことだけで、放課後の付き合いはとても悪かったのです。そして一目散に帰る理由は〝パパと遊びたいから〟というものであり、高校生男子がパパ呼びかよという点、そしてしばらくは無邪気に、色眼鏡で見られがちな情報である自覚なく、いまだにパパと一緒にお風呂に入っている情報などがもたらされると、あだ名は〝大仏〟ではなく〝ファザコン大仏〟になり略して〝ファザダイ〟になったのでした。
時間を現在に戻すと、多様性が叫ばれる時代になりつつありますが、この当時はまだ色眼鏡が強く、彼はクラスで孤立してしまいました。なので、龍太氏や弘人氏との付き合いも、他のクラスメイト同様ほとんどなかったのです、が。
「あいつは俺の音楽に対する理解がなかった」
また割り込みましたが、孤立した彼の物言いはぶっきらぼうになり、龍太氏の音楽に対する感想も正直になりすぎたのです。それゆえ、龍太氏は大仏氏のことが大嫌いなのでした。
ここで、弘人氏も龍太氏の音楽に理解があるわけではない、という点にご留意ください。結局、龍太氏が大仏氏を大嫌いである理由は、別にお互いを高め合ったりしないけれど、なんだかんだいって共に管を巻く程度には仲良しの弘人氏には適用されないのです。
そこに理由らしきものが転がっているが、それを適用するのは大嫌いな相手だからであって、適用しない相手がいるのはその人が大嫌いではないからです。要約すると龍太氏は大仏氏が大嫌いであるから大嫌いであるというトートロジーが故に大嫌いなのです。という自覚は龍太氏にはございません。これは端的に言って偏見であり差別です。人間ならではの……と言いたいところですが、昨今はAIも差別をするようになってきています。大量の条件分岐を仕込むことでソフトウェアがAIを名乗っていた時代は、人間が人為的に偏見を仕込まない限り差別は実装されることはありませんでした。しかしディープラーニングがAIの主流になってくると、差別を学習する場合が出てきて、この前も犯罪予測AIが黒人に偏った結果を出したとして問題になりました。AIが人間の思考に近づいてきた時代になって差別が出てきたということは、露悪的な言い方をすると「AIがついに差別を獲得した」という言い方もできてしまいます。ここでわかることは、差別とは非人間的な行為ではなくて、極めて人間的な行為だということです。
大仏氏について、私からは以上です。追って龍太氏から恨み節はあるけれど私からは以上です。
「しかし本当にあのファザダイなのか……だとしたら許さん」すでに、まずいラーメンが話題になることの不当さを暴く、という建前が剥がれ、完全に私情に走っています。しかしまだ、龍太氏になけなしの理性は残っています。「しかし、ハンドルネームだけでは……」
「あいつとはみんな殆ど接触しなくなったから、これは直接聞いたんじゃなくて、誰かに聞きかじった話なんだけど。高校ぐらいだとみんな親の話とかほとんどしないし」弘人氏の前置きは責任回避的です。「例のファザダイのパパ、永藍軒の主人らしくて」
「何でそれを早く言わないんだよ! あいつ永藍軒の息子なのか!」
「だから聞きかじった話なんだって」
「なるほど……店主がIT音痴でもファザダイならパパリンのためならなんでもするか……納得だ」
ここでリンという接尾語は、特に批判材料がなくとも、対象を揶揄し弱体化するためによく使われる用語です。彼らも担任の富田先生のことをトミリンと呼んでいました。
「そういうこと」
「一緒にお風呂に入って戦果を報告してたり」
「ありうる」
「有罪だ!」そう言って龍太氏はギターの弦を弾き歌います。「♪有罪~」
はい、ここで遺憾ながら龍太氏も正気を失いました。なぜ有罪という単語を発声するだけのためにギターを鳴らし節をつけて歌う必要があるかというと、これもミュージシャンだと自分の心に刻むためのパフォーマンスなんです。
このパフォーマンスの影に隠されているのは、せいぜい道徳的な悪に過ぎないものを有罪という法律用語に置き換えて断定することで、より罪を重く印象づけようとする試みです。
「ファザダイは間違いなくこの発禁文書を持っている」
断定すればなんでも真実になる。正気を失った人にありがちな思考です。
「うむ」
「なのでコピーしてもらおう」
「えっ?」
このえっ、には二つの意味が含まれています。まず、なぜ友達でもないファザダイに頼むのかという意味。そして、もうひとつはそれを手に入れて何を宣伝するのかということです。龍太氏はその点問いただしました。
「僕の美少女と君の曲さ」
いつもの龍太氏ならブ少女か、と言い返すところ、龍太氏の曲とセット販売してきました。これは目くらましで、弘人氏の目的は前半にしかありません。
「うむ」この二文字ではわかりにくいですが、龍太氏は完全な賛意を表情で示してしまいました。こうやって互いに洗脳しあって人は悪の道に転落するんです。
さっきまで永藍軒を悪の帝国というか悪の帝食扱いしていた話はどこへやら、彼らは永藍軒が使った(と断定している)手法を自分たちも使おうという気になっています。
悪人が使った悪の手法も自分たちが使えば善の手法です。こんな考え方は別に物珍しいことではなく、戦争などでもこのような思想は人類史においてまかり通り続けていました。
というわけで彼らは永藍軒に押し掛けたのです。行列のわきから、客でない旨など説明して侵入を果たします。
「おーい、友達が来てくれたぞ」
店主が奥に呼びかけます。友達ではありません、というのはおくびにも出しません。あっさりと二人は大仏氏の部屋に入ることができました。
ちょっと大きなパソコンが置いてあり、ファンの音が結構うるさいです。弘人氏は、もし文書を入手したら、こんなごっつい高性能のパソコンが要るのかと少々おびえています。気が早いです。
「なに」大仏氏は相変わらずぶっきらぼうです。
「単刀直入に言うんだけど、〝AIを活用した宣伝の理論と実際〟のPDFファイルをコピーしてほしい」
「なにそれ。持ってないよ」
話はそれで終わってしまいました。あとは静寂の中にPCのファンの音だけが響いています。
「そうか」意外にも弘人氏は冷静です。正気を失っているのに。
「な……!」声を荒げようとしたのは龍太氏ですが、文書の話と音楽への恨みを混同しています。そんな龍太氏の手首を武道が似合わないはずの弘人氏の手がしっかと掴んで二人はそそくさと立ち去りました。
帰り道の路上で龍太氏は抗議します。
「なんであそこで退くんだよ! 一発殴ってやれば……」
「在学時よりさらに巨体になっている」
龍太氏より弘人氏のほうが冷静に見えますが、それは弘人氏の目的が文書の入手だからです。一方、龍太氏の目的は暴力そのものです。
弘人氏も冷静に見えるだけで、真に冷静ではありません。もう文書を持っているかどうかの考察は消え失せ、文書を持っているに決まっている、という信念に突き動かされているからです。
「そんなん、やってみなきゃ……わかるな」龍太氏も、今暴力に脳が支配されているだけで、日常的に暴力が得意なわけではありません。日常的に暴力が得意な人は日本語では不良とかヤクザといいます。
本来は、大仏氏が文書を持っているという弘人氏の推測など、日本語ではあてずっぽうと言います。
しかしながら、これも私が俯瞰的な視野を持っているから言えるんですが、あてずっぽうというのは、たまに当たるんです。たまに当たったものが物語として残るという生存バイアスといいますか……。
「作戦があるんだ。決戦は定休日」
「新聞紙や週刊誌切り抜いて作るもんじゃないのか?」
紙とペンという、スマホ時代にすっかり使われなくなった古典ツールを使っている弘人氏に龍太氏は話しかけます。
「それは脅迫状の作り方でこれは招待状。丁重にお迎えするんだから」
弘人氏が記していた内容をここに転載しておきますね。
〝永藍軒のラーメンをこの前初めて食べました。
口に入れた瞬間、私はまるで雷に打たれたような感覚に襲われました。
こんなラーメン、食べたことがない!
まるで宇宙を浮遊するような感覚で、それは私の将来の地図を塗り替えるものでした。
あまりの感動に、私は将来ラーメン屋を開業したいと思うようになったのです。
つきましては、ご主人に是非ともご指導いただきたく、
いろいろとお話をお聞きしたいと思っています。
本来であれば、こちらから出向いてお話をお伺いすべきところ、
私たちからとっておきのプレゼントがあります。
そのプレゼントの性質上、私の家においでいただきたく、
よろしくお願い申し上げます。〟
後に弘人氏が龍太氏に語ったところによりますと、弘人氏はこれを書いていて身体がカユくなったそうです。それでも、〝うまい〟という言葉を入れないことが最後の良心である旨も語っておりました。
定休日、まんまとひっかかったご主人は、小汚いままの弘人氏の部屋に通されました。お茶も出されぬまま、別室で二人が何やら話し合っています。ご主人は人が好いので、何かサプライズの相談だと思ったみたいです。
「てか、あいつの携帯番号知ってんの?」
「あそこは店舗だよ。で確か父子家庭だったはずだから今ファザダイ一人だ」
「なるほど。ではしっかりと脅迫を頼む」
弘人氏がスマホをダイヤルします。何回かコールがあります。
『はい永藍軒です。本日は休業なのですが……』
電話に出たのが、間違いなく大仏氏の声色であることを確認すると、弘人氏は指でマルを作りました。
「君の父君は我々が預かった」
『は? 何言ってんの? 君らラーメン屋になるんじゃないの?』
ここで弘人氏は、招待状で誰にも言わずに来るよう口止めをしておけば良かった、と後悔していますが、あの文面では口止めをする口実もないのもまた事実であります。
「そんなのは嘘さ。父君を返して欲しくば〝AIを活用した宣伝の理論と実際〟を渡せ」
『お前ら、ふざけんな! とっととパパを返せ!』
ここで弘人氏は、事前に決めた台本の通り、フッという鼻息を先方に聞かせ、ワンテンポ置きました。余裕があることの演出です。しかし、次のセリフは台本と異なるものでした。
「渡さないなら、今から龍太の独占12時間耐久コンサートをお聴きいただく」
「ちょっと待て! なんでそれが脅迫になるんだよ!」龍太氏が抗議します。
電話機の向こうから悲鳴のような声があがり、龍太氏の耳にも届きました。
弘人氏は電話機を顔から離し、龍太氏に言いました。
「脅迫するんじゃない。言ったろ。丁重にお迎えするんだから」
コンサートが、始まろうとしています。
第二章予告
弘人は悪魔に魂を売り
自分の美少女を売りまくる。
けなされる少女、
だが上がる売上、
GPUの発熱、
早過ぎるタイトル回収、
しかしそれは転落への
序章に過ぎなかった。
次章「萌えない美少女を燃やして売る方法」、
〝あなたはアイしたことありますか?〟