ミィの翅(つばさ)

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梗 概

ミィの翅(つばさ)

近い未来。人類は未知の病、シスマ病に脅かされていた。シスマはとある不信心者の村から生まれた奇病だった。潜伏Ⅰ期にはサタンの幻聴が聞こえ、Ⅱ期ではリウマチや生殖機能不全の症状が起こる。晩期には悪魔憑きと呼ばれる翼状の肉腫や骨腫が身体から突き出てくる。

シスマ病と判定された人間は不信心者のスティグマを押され差別の対象となる。シスマ判定は社会的信用と結び付いており、Ⅱ期患者は正規雇用に就けなくなるなど根が深い。教会はシスマではないと証明できる体内スキャン可能なナノ高分子を高額販売し、これが現代の免罪符と呼ばれ、格差のシンボルとなっている。

ウォンは息子のテオを不慮の事故で亡くして以来、神を信じられなくなっていた。妻のユナは自分たちの信仰が足りなかったと教会へ高額献金をするようになり、夫婦生活に限界を感じたウォンは妻と別れ郊外の開発地域へと移り住む。その日からウォンはシスマとなった。

六年後、シスマがⅡ期まで進行したウォンはスラムでその日暮らしをしている。病の寛解を目指し教会で祈りを捧げるも皮膚には浅黒い痣が広がり回復の兆しは見えない。

ある日ウォンは工事現場で翼の生えた少女が墜落するところを目にする。ミィと名乗る少女が落ちてきたのは司教区一の高さを誇る教会の高層ビルだった。

ミィは先天性シスマだった。ミィの背中に生えた翼はシスマの症状だった。

しかしミィは至るところで奇跡を起こす。ミィは触れるだけでシスマを治すことができた。ミィはたちまちスラムの人々の信仰を集め、ウォンもミィと暮らすうちに荒んでいた心を取り戻す。奇しくもミィは死んだ息子テオと同じ年齢だった。

ウォンがミィの将来を案じ始めた矢先、警官が訪ねてくる。ウォンは警官の不自然な言動や銃を携帯している様子から目的がミィであることを察する。

ウォンはミィを連れて逃亡する。

行く当てのないウォンは教会の枢機卿と結婚し特別上級審問官(ケルビム)となった元妻ユナを頼るも、ユナは教会と通じておりウォン達を教会に引き渡す。

ウォンはそこで枢機卿からシスマの真実を聞かされる。シスマは宇宙から飛来する微粒子状の生物が脳に寄生することにより発症する。信仰は脳に特有のパターンをもたらし病の進行を食い止める。教会は人類を変異させないためナノ高分子を接種させ管理していた。

そしてミィは唯一シスマと適合した抗体である。

ウォンはそれでもミィを自由にすることを求める。聞き分けのないウォンは教会に監禁されるが、そこにユナが現れる。ウォンはあの子がテオの生まれ変わりだとユナを説得する。脱走したウォンはユナのIDを使い微粒子の観測所となっている高層階を目指す。

ウォンはミィを助け出すも警備に撃たれてしまう。屋上まで逃げたウォンはミィに「君には翼がある」と言う。ミィは翼を広げ、宇宙へと飛び立つ。それを見たウォンは安心して事切れる。直後その背中から翼が生え、ウォンはミィと共に宇宙へ上っていく。

文字数:1211

内容に関するアピール

「イエスの名によってあなたがたに勧める。みな語ることを一つにし、互いの間に分争がないよう(略)堅く結び合っていてほしい」〈コリントの信徒への手紙一 1:10〉

シスマとは離教を意味する言葉です。有名なものでは東西教会の分離などがあります。

キリスト教は世界最大宗教ということもあり、その復活と救済の物語は最も使い古されたアイデアだと言えます。

また聖書で語られるイエスの奇跡は人間離れしており、そこで語られる事柄はあくまで象徴的なものであり、一部の治療行為を除き、史実性はないと見るのが聖書学の見解でもあります。

今回はこの奇跡をSF的な発想で織り直すことを試みました。

人類を襲った病が地球外生命体にもたらされたものであり、それは人類が新たな種としての復活するための受難である。男は神の手により癒され復活する。それを書こうと思います。

文字数:362

課題提出者一覧