梗 概
スイープ・アウェイ
宇宙飛行士になるのが夢だった。
神木コージは宇宙の深淵に向かってそう呟いた。
そう遠くない未来。軌道エレベーターによる宇宙開発の時代が始まっていた。
コージはエレベーターを走るトラムの設計するエンジニアだった。
その日も業務を終えステーションに引き返そうとしたとき、不審な船が入港するのを見た。戻るとステーションはテロリストに占拠されていた。
驚く間もなく同僚が撃ち殺される。次は自分だと覚悟を決めた時、一人の男がそれを止める。
気を失っていたコージは目を覚ますと拘束されていた。隣には自分を助けた男がいた。男はセムと名乗り自分達のことをユージーンと呼ばれるテログループであると明かす。
塔の上のラプンツェルの泥棒ですよ。知りませんか。王冠を盗み塔に逃げ込んだ男の名前。
テロリストと名乗る割に気さくなセムはコージの拘束を解き自分たちの目的を明かす。
それはステーションを連結するリニアをレールガンに改造し、その一部を地球に落とすことだった。そのためにコージの持つ知識が必要だと言う。
コージはもちろんそんなことはできないと拒否するがセムはそこである設計図を見せる。それはコージが過去に匿名掲示板にふざけて投稿したステーションを質量兵器に改造する方法だった。
セムはそれを見せ「だからあなたを生かしたのです」と言う。また「あなたの兄を尊敬しています」とも付け加えた。
コージには世界的に著名な兄がいた。兄のユーイチは十年前、新素材を発明しエレベーター建設の立役者となった。コージはそんな兄を尊敬していたがロケットによる宇宙開発の時代を終わらせ、夢を奪った人間として複雑な感情を抱いていた。
結局、兄は建設中の事故で死んだが一時期はそんな兄に対しての反発で自棄になっており、そのとき書いたのがその設計図だった。
そのとき日本から通信が入り、コージを介してテログループへの交渉が始まった。
担当官はコージの離婚した妻や子供をダシに醜い交渉を持ちかけてきた。
落胆するコージにセムは言う。
将来、宇宙ビジネスにおいてその利権はエレベーター開発に関わった国や機関が独占する。ISSの開発と同様、協定を結んだ国だけがその恩恵に与る。
それは国際協力という名の欺瞞である。競争化が進む宇宙開発においてその寡占は許されない。自分の出身国のような貧しい国はさらに貧しくなる。だからその流れを止める。
だからテロを起こすのか。
コージは共感を抱きながらもテロは許されないと反対する。
そこでセムはあることを明かす。
コージの書いた設計書には誰かが手を加えていた。アドレスを辿ればそれは兄のユーイチであり弾頭の耐久性に問題のある設計図に新素材のデータを織り込んでいた。それはまるで弟の門出を祝うかのようだったと。
コージは亡き兄の真意に困惑しながらも、そこで初めて兄弟という関係に思いを馳せる。
そしてレールガンのボタンを押す。
宇宙開発の夢が形を変えて地表を一掃した。
文字数:1200
内容に関するアピール
今回、以下の二点に力を入れて梗概を書きました。
・やっぱり自暴自棄、ニヒリズムは楽しい。
・それらを本当に楽しいと思うために舞台設定やキャラクターには現実の自分が共感できる想いや背景を設定する。
自分がこれまで書いてきたものには上記の要素が、かならず入っていると思います。
自分で書いたキャラクターになにか謎の魅力があるなと思ったとき、大抵は作者である自分の気持ちを代弁していたり、複雑な設定や背景を自分語りをするための布石にしていたりと、色々と迂遠なことをしているなと自分ながらに感じています。
これらをうまくやるために、正直ベースの視点を意識したり、インプットにある程度、惜しみなくリソースを割く(とりあえず気になった新書は買う)などが自分の二次的な強み、ひいては武器でなっていると考えています。
今作のタイトルはピンチョンの「スロー・ラーナー」のような素朴な格好良さを目指しました。
文字数:388