梗 概
ステージャー
技術が発達し、人口が大幅に減少した社会では、空き家が大量に発生し、新しい土地開発も滅多に行われなくなった。従来の不動産業界における物件の管理や営業などの別々の職種で行われた仕事が今や「ステージャー」と呼ばれる人たちが担うようになった。大きな都市でもステージャーが数人程度しかおらず、農村部に至っては一人もいないところもある。
主人公は首都付近の中規模都市で生まれ育ち、そしてこの街の唯一のステーシャー。30年前に首都機能の一部を移転するために作られた街なので技術面においては最先端だがやはり人口減の影響で新しい住民の移転が見込めず、街の大半が過疎している。それでも主人公は街は素晴らしいところだと考え、ここに住めば新しい人生を手に入れられるのを信じて日々仕事に取り込んでいる。この日、一通の予約メールが入った。相手は国のある部署の企画官と名乗り、街の北部にある竣工直後に原因不明の火事が起きてほとんど住まわれてない団地を内見したいので同伴をお願いしたいという内容だった。新しい移住計画が起動するのではないかと期待する主人公が快く受託した。
約束の日、企画官はもう一人の頭に包帯を巻いている少年を連れてきた。企画官の話によると、少年はすでに首都の大学に受かった受験生。両親がこの団地の最初の住民だったが火事のせいで街から首都へと移住してしまった。今時若者の存在自体が貴重なので、彼らの初めての一人暮らしに国から手厚いサービスを受けられる。そのために企画官が付いている。
ステージャーが熱意を持って少年に団地の素晴らしいところをいろいろ紹介しているうちに、なぜか少年の方が昔の団地に詳しいなようで、企画官も礼儀正しい態度をとっているがずっと少年の顔を見ていて団地自体にあんまり関心がないらしい。さらに、三人から離れたところに一台のバスが尾行している。ステージャーは団地全体を見回る計画を変更して二人を団地のある部屋に連れ込んで、部屋に付いている空間装置を取り出して様々なにおいを発生させながら人生について力説した。話を聞く途中に少年が何かを思い出したように「くだらない。もう一回燃やしてやる」と叫び出した。それを聞いた企画官は少年に手錠をかけてバスへと連れていた。
実は少年こそが30年前の火事を起こした犯人で、30年間の刑期を終えて冷凍睡眠から起こされたら記憶障害を起こした。企画官は再犯の可能性はないかを確認するために今回の内見を申し込んだ。ステージャーの匂いによるプレゼンが少年の記憶を呼び戻してしまったため、彼はもう一度刑務所に戻される事になる。
コールドスリープに再び入れられた少年を乗せたバスが遠くへ行くのを見ながら、ステージャーは立ち尽くす
文字数:1120
内容に関するアピール
自分の作品を読んでいるうちは、まるで違う人生を体験でき、さらに元の人生へと帰ることができる書き手になりたいです。
どんな理想な未来に対しても、人は不満をいう。その不満をすくいとるのが文学の役割だと考えます。SF小説も文学の一種ならばこの役割を全うすべきのではないでしょうか。
文字数:136