梗 概
オタクに優しいギャルは存在するのか
2040年、夏。香田頼近は引きこもりがちな大学生だった。彼は「ギャルとオタクの僕の行方」というかつて読んだ漫画から「オタクに優しいギャル」に強い憧れを抱いていた。
ある日、頼近はweb上で「オタクに優しいギャルは存在したのか」という議論に遭遇する。このことは頼近の世界観を揺るがした。存在しないとは思いもしていなかったからだ。だが確かに見たことはない。彼はこの気付きから、自分の考える「オタクに優しいギャル」が実在するのか確かめたいと思い始める。
頼近はソーシャルVR上の数少ない友人「HISUI」に探求の助けを求める。HISUIは理知的な人物で、頼近は信頼を寄せていた。HISUIは興味を持ち、二人はギャルの実在を探すことになる。
そして探索は早々に暗礁に乗り上げた。ギャルの文化があったらしき前世紀の、その影響が残っていた0年代のwebデータが既に劣化ないし消失していたのだ。今は、文脈を失った短い言葉がわずかに残存するか、アーカイブされている紙状出版物の複写が読めるか、さもなければアダルトコンテンツがあるくらいのものだった。
頼近がかつて見た「ギャルとオタクのぼくの行方」とそれに類する漫画類はあったが、それらはギャルの実在したとされる年代とずれた、2020年代のものだった。
一方でHISUIは頼近に、2030年ごろにショート動画でギャルのタグがついたメイクやダンスに関するものを見たと証言する。それはHISUI 、本名:氷水春子という女性の今回の探索へのひそやかな動機だった。だがしかし、二人はショート動画におけるギャルの一切のサルベージに失敗する。一方で彼女の言説と類似する「思い出」や「証言」がwebで見つかりだす。しかしその信憑性もまた担保されなかった。AIによるブログなどが混じっている。そう彼女は違和感と共に語る。
頼近は「オタクに優しいギャル」を、HISUIはかつて見た「ギャル」の片鱗を探しているのだが、二人はそのことには気づかぬままであった。
次いで二人は年長者にインタヴューすることを思いつく。親に振る話題として極めて強い忌避感があった。そこで大学教員に聞こうとし、成功はしたものの、当時確かにいたらしい、以上の情報がなかった。ただそこで、過去はつねに現在の視点から再構成される、というヒントをもらう。二人は、それを今ある情報で作ればいいと解釈し、これまで集めたわずかな情報から、二人が普段いるソーシャルVR上でギャルの姿を再現し、それを自分のアバターとすることを考える。
しかしそれぞれが想起するイメージは元が異なっており、その造形の差に互いに笑いが漏れる。
そもそも話し方がギャルではない。ソーシャルVR上の人々はそう語る。ではどうすればいいのか。人々もそれには答えられない。
二人は人々の適当な集合記憶など無視して、互いを鏡としたギャルの探求を始めることにした。
文字数:1200
内容に関するアピール
自分とは異なる人物としてギャルを想定しました。
なぜならば(以下理由
ギャルは自分とはかけ離れた存在である。
例えば私が誰かに「お前はガンダムか」と尋ねられた場合、「そうだ」と答える余地がある。一方で「ギャルか」と聞かれたならば「ギャルではない」と答える他ない。
18mの金属の塊よりなお己と距離があるのがギャルである。
だからこそ必ずギャルを描かねばならぬ。
しかし彼我の断絶は大きく、断腸の思いで自らに妥協し、オタクに優しいギャルとした。それでも空虚な登場人物は像を結ばなかった。
気づいたときにはキャラクタを描くことから離れ、作中でギャルを探し求めていた。欠落から存在を浮かび上がらせられるのではとも思ったが、描いていない以上はギャルの虚ろとしか言えず、全く慙愧に堪えない。
参考文献
sugar..オタクに優しいギャルに私はなる!(1~3).星海社,2024-2025
文字数:388