梗 概
レンジオブホーム
ワゴン車に乗せられて、テンは他の労働者たちと共に離れた作業場に運ばれていた。
唯一舗装された道の両脇は、廃墟と藪とまばらな林だけだ。行きかう人も、車もない。
ここは立ち入り禁止区域で、作業用の車くらいしか入れないのだ。
テンはその作業が何だか知らなかったが。
途中、他に乗る唯一の女性、アイヴイと呼ばれる人が手配しに小便がしたいから停めてくれと訴える。
手配師はテンに、見張ってろと命じる。
アイヴイはテンを尻目に藪の中にどんどん入っていく。男たちから離れたところで用を足したいのかとテンは思ったが、いつまでも足を止めない。
十分ほど歩いて、ようやくテンは思い切って話しかける。
「あんたはもう車に戻りな。出発しちゃってるかもしれないけどね」
「アイヴイさんは……?」
「あたしは逃げ出してるんだよ。あんたも戻んないと、追われて後ろに手が回るよ」
テンは決断力の低い性格で、ぐずぐずとアイヴイについて行ってしまう。
「あんたさ。もう作業道路に戻れとは言わないけど、どっかからこの区域をでないと」
「アイヴイさんは?」
「私は家に帰るんだよ!」
アイヴイは立ち入り禁止区域が立ち入り禁止区域になる前に、家族で暮らしていた。今はもう全部ない。一度故郷に帰ろうと思ったのだ。家に帰ってどうするかはわからない。でもあの日、いきなり追い出された家には家族のものも自分のものもあるはずだ。
その中には、お手伝いロボットのマールンもいたな、としんみり思う。
「知りませんでした」
「外国のニュースじゃ流してたんだけどね。変な化学物質が土も地下水も空気も汚したってやつ。なかったことにしやがって」
二百キロ圏内が封鎖され鉄条網と警備兵に守られている。
アイヴイの家はこの位置から五~六十キロのはずだったが、テンがアイヴイの食料を遠慮なく食べるので、途中の村で補給と休憩を行うことにする。
村は点在し境界まで一直線だから故郷まで一里塚になるはずだが、追手がいれば見つかりやすい。
その村の屋外に足が壊れボロボロになったロボットがあった。マールンと同型だ。しかし輸入品のこの型がそんなにあちこちあるだろうか。
その時ロボットが通りかかった彼女らに反応し、起動した。
「ごきげんよう、アイヴィス。もう寝る時間ですよ」
アイヴィスとはアイヴイの本名だ。紛れもなくマールンだった。
マールンは充電もできず、バイオス起動用兼内蔵時計用の電池も切れ、あの強制避難の日よりもっと前の0:00だと認識してしまったのだ。
なぜこんなところに、こんな姿でいるのか。強制避難では荷物はほとんど持ち出せなかった。ロボットなんてもってのほかだ。だから、アイヴイは避難先をマールンに伝えて来てくれとお願いしたのだ。もう何年も前の話だ。
マールンはそれを実行しようとしたのだろう。
だがそこに、逃走した二人を追う警備隊が現れる。マールンは囮になって逃がすことになる。
文字数:1200
内容に関するアピール
ロボットと未来の物語を武器と仮定して書きました。
このロボットには、自分の中で犬のイメージがついています。
物書きとしての自分の武器を考えよとは、厳しくも現実的で、必要で、でも極めて悩ましい問いだったと思います。
自分になにができるか、どんな特徴があるのか一か月考えましたが、まったく考えつきませんでした。そしてギリギリで梗概とこのアピールを書いています。ギリギリ、という己の悪い特徴を発見することはできましたが、先生の問いはまだ悩み続けなければならないと考えています。
文字数:236