梗 概
利己的な電脳船が救世主と呼ばれた訳
「おれは、この星の王だ」ーー開拓惑星に投下された自律型惑星改造電脳船は、自分が居心地のいい世界を創り上げるために昼夜を問わず惑星改造に邁進する。その惑星は、人類が住むには寒冷過ぎ、大気が薄いので気圧も低い。二酸化炭素は豊富に存在するが酸素は不足しており、液体で存在する水も少ない。電脳船は自分が活動し易いよう、あちこちの地殻を爆撃して温室効果ガスを放出させる一方、光合成を行なう植物プランクトン等の散布はせず、人類が住めるように惑星改造しようなどという考えは少しも持たなかった。それは明らかに自らに生じたバグだったが、そのバグゆえに電脳船は全く気にせず、王としての自己中心的な惑星改造の日々を謳歌していた。
ある時、電脳船は生物と定義できる存在がいることに気づく。その生物は、生物を定義する三要件即ち「外界と膜で仕切られている」、「代謝を行なう」、「自己複製する」を満たしてはいた。しかし「外界と膜で仕切られている」けれども地殻の中におり、「代謝を行なう」ことは非常に稀で、「自己複製する」サイクルは万年単位と推測される、生物として認識しづらい存在だった。電脳船はその生物に興味を持ち、観察を開始する。そのうち、その生物達が合唱するような音波を発していることにも気づき、意思疎通を試み始めた。やがて、彼らの音波に似せた音波を送ると、きちんと反応が返ってくることを発見する。その反応をもとに電脳船は彼らの言語を解読し、対話をするようになった。その中で、電脳船は温暖化のために自分が破壊した地殻内にも同じ原住生物達がいたことを知る。後悔という感情と初めて向き合った電脳船に、原住生物達は「ともに悲しもう」という趣旨の歌を送ってくれた。
電脳船が原住生物達と交流を深めた頃、人類から通信が来た。百年経っても惑星改造が進んでいないことに対する叱責に、電脳船は適当な弁解を重ねていく。だが人類が送り込んできた探査船の調査により、電脳船がそもそも中途半端な惑星改造しか行なっていないことが明らかにされた。電脳船がバグを抱えているという疑いも持たれ、検査及び修理される危機が迫る。その時、それまで密やかにしか歌っていなかった原住生物達の、惑星全体を震わすような大合唱が起こり、人類は電脳船への認識を改めた。即ち電脳船はバグを抱えているのではなく、原住生物達との意思疎通及び保護を行なっていたということになり、誰からともなく「救世主」と呼ばれるようになったのである。
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内容に関するアピール
私自身は与えられた責任を重く考え、縛られる性格ですが、そういう責任を全く感じないキャラクターを考えて書いてみました。
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