梗 概
辺境の守護神
中央の国立兵学校を卒業した少年ロイは、暗黒大陸を砂漠の向こうに臨む辺境警備への着任を命じられる。そこは危険な魔獣や怪物が暗黒大陸から迷い混んでくる危険地域だが、守護神と呼ばれる曹長がいるため、殉職は皆無との噂だった。ロイは屈強な体躯の曹長を想像して着任したが、実際の守護神は、寧ろ華奢な体つきの、セリティと呼ばれる少々味覚のおかしい寡黙な美人だった。
セリティは頭脳明晰で運動能力が高く、暗黒大陸から漂ってくる瘴気や毒素にも強く、どのような魔獣や怪物の襲撃があっても、立ち所に察知して確実に迎撃する。耳や鼻が鋭いだけでなく、熱や瘴気までも見えているらしく、光を食べているとも噂されていた。他の隊員達も、体を光らせたり毒を持っていたりと、それぞれさまざまに秀でた能力を有していたが、ロイはロイで、セリティ達には見えない色が見える能力や、外傷や病気に強い体質、一日中活発に動き続けられる体力を生かして、着実に辺境警備隊内での地位を上げていく。ロイはできるだけ早く功績を積んで中央に戻り、首都の警備隊に入るという、ささやかな野望を持っていた。
しかし、ある日、巨大な怪物が魔獣達によって送り込まれてきて、戦功を焦ったロイは窮地に陥る。助けに来たセリティによって怪物は退けられたが、魔獣達の包囲からは逃れられなかった。二人は砂漠の望楼で昼夜に渡る防戦を開始する。その中で重傷を負ったセリティは、魔獣や自分達が旧人類によって創られた生命であることをロイに語った。暗黒大陸の瘴気とは放射線、毒素とは鉱毒であり、魔獣とは遺伝子改造されて知性も持った動物、怪物とは魔獣が旧人類に倣って兵器として創った生命だという。暗黒大陸とは、旧人類が放射能と鉱毒で汚染して住めなくなった土地であり、そこに適応した魔獣達が住み着いていたのだ。
更にロイは、相対する魔獣達が猫を基に創られたことをセリティから聞く。ロイは望楼に保管してあった木天蓼酒を使って魔獣達を酩酊させ、セリティを連れて城砦まで帰ることができた。その夜、セリティは自らも人間ではなく犬を基にして創られた辺境守護のための不老の魔獣で、だからこそ鼻も耳もよく、光合成ができて放射線も見え、放射線耐性もあると明かす。中央の王族や官僚は魔獣や暗黒大陸の真実を知っているが、体制維持のためにそれを隠しているとも告げた。中央に不信感を懐いたロイは、首都への異動申請を出すのをやめ、辺境に暫く留まることを決める。そしていつか、セリティを永年に渡る辺境守護の楔から解き放つと誓った。
(自分が武器だと思うものは、人間を模した存在のキャラクター描写です)
文字数:1086
内容に関するアピール
自分の武器とは何かと考え、これまで書いてきた作品を振り返った時、自分は、人間ではないけれど人間を模して創られていて、且つ人間を大切に思っているキャラクターの描写が得意(ではないにせよ好き)だと改めて感じました。その上で、ファンタジー的な世界観の中に科学的な要素を入れるという、自分が最も好きな書き方ができる話を考えました。セリティは、単なる忠犬的なキャラクターではなく、一癖も二癖もある美人にしたいと思います。遺伝子改造については、植物由来、爬虫類由来、鳥類由来、クマムシ由来の遺伝子など、いろいろ楽しく考えていきたいです。
文字数:262