梗 概
1日8,000歩
近未来の日本では、技術発展によって必死に働かなくても暮らせるようになっていた。最低限の栄養を補う配給食が提供され、SNSやアンケート参加で得たポイントで少し贅沢な食事を楽しむこともできる。人々には健康維持のため、1日8,000歩以上歩く、又はそれ以上の運動義務が課されているが、それを嫌う者は多い。
主人公は30代前半の運動嫌いで小太りな女性。『運動は運を動かす』という言葉には虫酸が走る。20代後半と偽るSNSで他人をディスって獲得するポイントで贅沢な食事を楽しむことが生き甲斐。そんな彼女のもとに、自治体から「将来的な医療費負担が見込まれるため、運動指導を受けること」を求める通知が届く。無視を続けていたが、SNS凍結を含む制裁を警告され、渋々指導を受ける。
5月、彼女は東京西部の山に連れて行かれ、健康促進官と共にゴミ拾いを兼ねたハイキングを強いられる。健康促進官は40代後半で運動好きな女性。すらりとした体型で溌剌としており、主人公が最も嫌うタイプ。こんなことに何の意味が?主人公は不満と苛立ちを隠せない。健康促進官は「半年かけて1日平均8,000歩を習慣にして下さい。できなければ、相応の対応をとらざるを得ません」と告げる。しかし主人公はやる気を持てず、半年間何もせず過ごす。
11月、再度警告を受けた彼女は厭々再び山へ向かう。そこには、主人公が推す俳優に似たAIロボが待っていた。ロボは健康促進官とは違い、親身に話を聞いてくれた。彼女はこれまで誰にも話したことのない、配給食材で密かに作っている「悪魔的に美味しいスナック」について打ち明ける。
会話に夢中になって歩いていると、日が陰り、熊に遭遇する。必死に逃げるものの背後から押し倒され、絶体絶命。そこに小型のeVTOLに乗った健康促進官が現れ、麻酔銃で熊を行動不能にする。しかし、主人公を助けるそぶりはない。逃げる途中ではぐれたロボが駆け戻り、飛び移って健康促進官に訴える。「うまく状況に対処できなかったことによって私の廃棄の必要性が28.7%上昇してしまい、不安を感じます」
健康促進官はロボをなだめつつ、「道迷いや滑落で終わると思ってましたが、まぁいいです。足元を照らすので、自分で歩いて下さい」
そう言って山道を照らす。主人公は恐怖でもらしている。
「なんで私を乗せないの!」主人公は抗議するが、
「座席を汚したくないので乗せられませんが、ロボの解析によると、あなたを処分する必要性は昨日より低く算出されました。軽傷のようですし、自力で歩いて下さい」と突き放される。ロボは健康促進官にしがみついたままだ。
主人公はしばらく言葉を失っていたが、苛立たしげに立ち上がり、歩き出す。その背中をじっと見つめていたロボは、「対象者の処分と私の廃棄の必要性の両方を引き下げたく、再度の接触を試みます」と言って飛び降り、主人公を追いかけた。
文字数:1200
内容に関するアピール
“自分とまったくちがう思想を持つ人”を考えた時、これまで第2課題以外では何らかのスポーツを実作に取り入れていたので、”体を動かすことはやるのも見るのもとにかく嫌い、価値を感じてない・否定的な人”に主人公になって頂きました。
ログラインは、”必死に働かずともそこそこ暮らせる近未来。自らを律してよい暮らしを求める人々と、怠惰を棚に上げゴシップを消費する人々との健康格差は広がった。医療費削減のため、政府はAIロボを活用し後者の口減らしを進める”です。
ロボの想定プロンプトは”運動指導へ誘導して下さい。困難と判断した場合は、対象者を穏便に処分して下さい”という設定にしており、オチは悩ましく、当初は別案を考えていました。
運動嫌いでディスりバズを喜ぶ主人公が管理社会の下でどう扱われ、ロボとのやり取りが主人公に何をもたらすのか、新緑と紅葉のハイキングの情景を描きつつ、丁寧に書きたいと思います。
文字数:393