梗 概
解いて、結んで
こよみは、3年前から心臓病を患い、移植手術の日を待っていた。
病が発覚するまで、こよみは日本の高校に通い、趣味の機織りで小物類を作成し、創作活動に励んでいた。
機織りは、こよみにとって心の拠り所となり、闘病のあいだも続けていた。
そして、いよいよ移植手術の日が決まった。こよみは手術成功を願い、機織りでマフラーを作っていた。ふと、病室の隅にミシンを見つけた。どうして、病室にミシンがあるのかと首を傾げていると、ドアが開いた。看護士が検温に来たのかとそちらに顔を向けると、少女が立っていた。少女は白い髪に赤い瞳をしている。肌の色は真っ白で、ウサギのようだった。こよみは少女を知っている。3年前に失踪した妹のアイだ。
少女は、こよみを見て驚き、小さな声で「お姉ちゃん」と呟いた。
時間移動が容易になった時代のなかでは、国家間、惑星間の戦争ではなく、並行世界間の戦争が起きていた。自分たちの世界線を生存させるために、他の並行世界に「ほつれ」を発生させ、過去、現在、未来の概念を破壊する。そうすれば、時間の概念が破壊された世界線は消滅する。
アイは、その「ほつれ」を作成する工作員だ。今回の任務は、並行世界NO.2024に「ほつれ」を発生させること。任務に従い、時空間を移動した先は病室だった。
アイが病室を見回すと、先客がいた。ベッドに腰掛け、窓の外を眺めていたこよみだった。
こよみとアイは、お互いに目を見開き、硬直する。
突然現れたアイの顔は、こよみの妹にそっくりだった。今から3年前に、行方不明になっている。
ベッドに腰掛けるこよみは、アイの姉にそっくりだった。今から3年前に、病死している。
不思議なことが、さらに起きた。
こよみとアイのお互いの手が、様々な色の糸で編み込まれた一本の糸で繋がれていく。
すると、部屋の隅にあったミシンがひとりでに、がたごとと動き始める。
機械の体が、ミシンから生えた。ミシンは、ふたりに告げた。
「私は、タイムパトロール隊です。あなた方は、ほつれを発生させた原因として拘束いたします。ほつれが解除されるまで、部屋から出られません」
ミシンは、ふたりを拘束する。
こよみは、病気を治して、一日も早く普通の生活に戻りたい。ミシンに状況の説明を求め、力になれるなら手伝うと申し出た。
アイは拘束されたまま、ミシンとこよみが時間のほつれを修正する様子を傍観する。こよみが生きている世界線を殺そうとしている自分が、力を貸せる訳がない。しかし、病死した姉が生きている姿に喜びを感じている自分もいる。
アイも、こよみも、お互いのことが気になって仕方が無かった。沈黙がしばらく続いたころ、アイがこよみに問いかける。
「この部屋から出たい?」
「出たい。この部屋から出て、私は生きたい」
こよみの答えを聞いたアイは、世界線の異なるもうひとりの姉を助けるため、時間のほつれを修繕することに協力を申し出る。
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内容に関するアピール
継続して力を注力したいと考えているのは、キャラクターの関係性です。
とあるキャラクターから見た感情のグラデーションを描写できるのは、小説の利点のひとつと考えているので、その作品に登場するキャラクター同士が織りなす関係の変化や、唯一性を表現していきたいと考えています。
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