梗 概
ファントム・ペイン
〇趣旨
生体移植の台頭により義肢の需要が減っていく中、義肢装具士が不思議な客との交流を通して生体移植技術の闇に気付いていく。
〇舞台
大戦の傷と成長した技術が混在する近未来の都市郊外。
〇梗概
LAWSや人造人間の兵士が投入された戦争の中で右足を失い義肢を使うようになった主人公は、自身もまた義肢装具士としての知識を付け戦傷病者の救護を手伝っていた。しかし突然停戦が発表され戦傷病者たちは平和な社会へ戻されることとなる。
義肢製作所を立ち上げ細々と暮らしていた主人公はある日風変わりな客と出会う。彼女は左足を失っていたが、その切断面は外傷にしては綺麗で医療行為にしては衛生的でなかった。彼女を連れてきた女性は姉だと名乗ったが顔はあまり似ていない。主人公は怪しみながらも義足製作を請け負う。
その後主人公は他の客から生体移植を受けるかどうか悩んでいると相談される。最近臓器だけでなく手足の移植手術も盛んになってきているのは主人公も知っていた。主人公は自分で義足を整備できるので不便には思っていなかったが客にとっては移植の方が便利だろうと思う。
やがて義足を姉妹に渡す日になる。主人公が妹に義足の装着を指導していると姉に生体移植についてどう思っているかを尋ねられる。やるつもりは無いがいずれ義肢が必要とされなくなる日が来るのかもしれないと答えると姉は渋い顔をして黙ってしまう。無口な妹はただ義足を珍しそうに見つめている。
義足の整備のため姉妹と定期的に顔を合わせる中、妹が病弱であることに主人公は気づく。妹の体調を気遣う関係になると姉は彼らの経緯を告白するようになった。手足の生体移植手術が成立しているのはかつて兵士を作るために使われていた人造人間工場を利用しているからであること。そこで生み出される人造人間は移植先の拒否反応を抑えるための免疫抑制機能を備え病弱で短命であること。妹は左足の移植後の殺処分から逃げ延びた人造人間であること。姉は人造人間を製造しドナーとして利用することを問題視しているが、ここの復興はその技術によって得た金で成り立っているためその根絶は難しいだろうこと。だから妹に普通の人間としての生活をさせることだけがこの社会に生きる自分にできる贖罪なのだと言う彼女に主人公は共感しながらもやるせなく感じる。
数か月後、病気がなかなか治らなくなってきた妹が主人公の元に姉と共にやってくる。妹はその足を主人公に移植したいと言う。主人公は彼女の覚悟を受け取るか迷った末、戦時中苦労して掴み取った義肢の技術を大切にしたいからと断る。妹は悲し気に微笑み、いつも通りの整備だけをして姉と共に帰っていく。
後日、主人公は近所の人造人間工場の火災の報道を目にし姉妹のことを思い出す。彼らからはあの日以降連絡が無い。妹の死を直感した主人公は生体移植のせいで減っていく依頼をこなしながら感傷に浸る。
文字数:1185
内容に関するアピール
私が自分と違う思想として設定したのは「伝統を重んじる」「責任感がある」「目の前のことを大切にする」という考え方です。よって主人公は義肢という歴史のある技術を受け継ぎ、技術者としての責任感を持ちながら目の前の仕事をする人物としました。その義肢という技術と対比させるために手足の生体移植という新たな技術を設定し、その材料として人造人間というモチーフを取り入れました。
題名は幻肢痛からとりましたが人造人間の心痛も表しています。
人造人間を移植のドナーにするという設定について、生来の手足とのバランスを考慮するとレシピエントのクローンという設定がいいかと思ったのですが、ドナーとレシピエントが同じ顔をしているよりも同じ顔の人造人間が大量にいる方が取り回しやすいと思ったため、生来の手足とのバランスについての描写は避けました。必要であればクローン設定に戻すか別の手立てを考えます。
文字数:384