梗 概
君こそがタイトルロール
舞台は2030年代の日本。技術の向上によりロボットを用いた演劇が流行し始めている。東京で活動する劇団ユニット「劇団太陽」はその中核メンバーにエンジニアを据え、ロボット演劇の先駆者として勇名を馳せていた。
荒川睦希(あらかわむつき)は「劇団太陽」に所属する子役。親が借金を理由に蒸発したため、親と面識のあった「劇団太陽」のベテランエンジニア萬谷(よろずや)に引き取られた。萬谷からは学校へ通うよう言われているが子役として学びたいと断っている。
1月の中頃、3月の公演の詳細が萬谷から団員へ伝えられる。その内容は人狼と人間の悲恋であり、睦希は主人公である人狼の幼少期役。その脚本を書いた脚本家の忍田と、その娘でありヒロインの幼少期役として参加する子役の忍田雅(しのだみやび)が顔合わせの日にやってくる。雅の美しさに睦希は緊張してしまう。しかし雅は睦希に対して一切感情を動かさず、ただ忍田の指示に従うだけだった。その落ち着きに睦希は悔しくなり、雅を超えようと躍起になる。
2月の中頃、劇に用いるロボットが完成する。それは人狼を模したロボットスーツで、狼形態に変形すると睦希を乗せて走ることもできる。それに乗ってはしゃぐ睦希はその様子を遠巻きに見ている雅に気づき話しかけにいく。雅は忍田の様子を窺いながらも嬉しそうにロボットに触れる。それを見た睦希は、雅の落ち着きの理由は冷静さではなく忍田への恐怖だと気付く。
2月末、睦希は先輩たちに忍田の足止めを頼み、雅を街に連れ出す。寒空の下、いつもより緊張を解いた雅は睦希に本当の自分を語る。雅は芸名で本名は雅己(まさき)。性別は男。事故で意識不明になった女優が母であり、雅己は彼女の美貌を求めた忍田が生み出したデザイナーベビー。忍田の言う通りに少女として子役をしているが、本当は学校に通って医者になり母を救いたいと言う雅己を睦希は慰めることもできず、ただ彼と共に劇団へ帰る。
公演が始まった3月の頭、睦希が稽古通りにはけることができず、出番のないラストシーンに取り残されてしまう。先輩も動揺する中、雅己が助けに来る。彼のアドリブに先輩たちが乗り、上手く終えることができた。雅己の機転に助けられた睦希は、彼は忍田に縛られているべきじゃないと再度痛感する。
3月の中旬、団員たちは最後の公演を終え打ち上げに向かおうとするも、忍田親子は誘いを固辞して去る。まごつく睦希に萬谷と先輩役者が声をかけ、ロボットに睦希を乗せて送り出す。睦希は忍田親子が乗る車をロボットで追いかけ、並走しながら雅己に声をかける。やがてロボットは失速し車との距離は離れていくが、睦希と雅己は一生懸命叫び、互いの夢を叶えた先での再会を誓う。
4月、雅己と再会したときに学校の思い出話ができるようにしたいと、睦希は学校へ通い始める。広がっていく世界のどこかで雅己も頑張っていると信じて、学業も子役もこなした。
文字数:1196
内容に関するアピール
「シーンを切り替える」という課題を見て最初に思いついたのが演劇というアイデアでした。そこで役としての関係と現実での関係がリンクしながら切り替わるような、子役同士の青春物語にすることに決めました。私は演劇部に所属していたので、その経験を以て情感豊かに描くことができると思います。
劇中作は「人狼が正体を隠したままヒロインを庇って死ぬ」というよくある脚本なのですが、正体を隠したまま死ぬ人狼と自分らしく生きる約束をする子役二人が呼応するように設定しました。
子役二人の絆がテーマなのでロボットの影が薄いのですが、そこはロボット演劇に情熱を燃やす劇団員の振る舞いで補強するつもりです。
ちなみにロボットが道路を走ることの是非については、馬と同じように自転車と同じ軽車両扱いということにしようと思っています。
また登場人物が男性に偏っているので、萬谷をいぶし銀の女性としてバランスを取ります。
文字数:388