君の肖像

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梗 概

君の肖像

 主人公は空想好きな女子高生。最近まではまっていたのは電導植物。開発中で高価だがホームセンターで展示されていた本物を見て空想が広がった。導線の代わりに使われる想定だけあって、上の方はコイルのように渦巻いたつるになっている。下の方はワイヤープランツのように小さな葉っぱが付いて横に伸長している。送電線になったらカラスの巣を自分で追い払えるかもとか。待受にして眺めていたら友達に笑われた。ある時突然、行く先々に同じ男が現れるようになり、今はその男が気になっている。

 「目で追ってるとか、それは恋だって」と植物の時とは打って変わって友達は目を輝かせる。恋なものかと主人公は思う。定期入れを落として拾ってくれたさわやかな大学生風の男。実際大学から出てきたのも見た。物産展に行った百貨店ではスーツ姿で絵をすすめていた。塾から帰るころにはホスト風で女の人と歩いていたり、また別の日は野菜を収穫していたりと毎度違う姿で見かけるのだった。驚いたことにある日、その男は下校途中にある画廊の前のベンチに、ホームセンターで見た電導植物の鉢を隣に置いて紙巻き煙草を吸いながら座っていたのだった。

 「それ、電導植物ですよね」と主人公は思わず声をかけていた。開店祝いでもらったんだ、と男は言う。男は植物を長く切り取って器用に巻き付けながら手のような形を作る。動いたら面白いよねと笑う。まだ耐火性低いから火落ちると燃えちゃいますよ、主人公がと言うと人好きのする笑顔で謝るので最近よく見かけるから何者かと思っていたと話すと男は突然、ほこりがついていると服をつまむ。驚いて主人公がお礼を言うと、男は通行人にも同じことをして、お礼を言われ、二人は笑い出す。何でも屋だと男は名刺を見せながら「でも人は見たいものしか見ないから、俺は誰かに夢を見せて、誰かの夢の中で生きているのかもしれない。」と言う。そして、唐突にお姉さんがいるかと男は訊ね、主人公がうなずくと、美術部だったかと訊ねる。主人公の姉は町を出たきり連絡がない。更にうなずくと、嬉しそうに同じ美術部で姉は部室で煙草を吸っていたこと、作品同様型外れで自由で自分のヒーローだったと話す。男は残りをロボットにするから楽しみにしていてと言う。通るたびに、朝夕男は外で熱心に造形に取り組んでいる。しかしながら、数日後のニュースではホームセンターで電導植物の鉢が盗まれたと報道されていたのだった。

 画廊の前を通ると元の店主のおばあさんが戻っていた。入院中に空き巣に入られたと近所の人に話しながら警察を待っている様子だった。ベンチの下に指さす手の形の電導植物があり、指の先を見るとビニールとリボンで包装された鉢が置いてある。電導植物の主株は目を瞬きする女の人の顔になっていて雰囲気が姉に似ている気がした。鳥肌が立ち、顛末を友達に上手く話せないような気がした。それから男を見かけることはなかった。

文字数:1200

内容に関するアピール

 

・自己肯定感が低い私は、真逆の価値観として自己肯定感を高く演じて他者を悪びれなく利用する詐欺師を主要人物に添えることを考えました。最初は自他ともに肯定感が高そうな結婚詐欺師やモテるのに結婚しない人を想定して参考文献を読み、詐欺師の、自分の空想になりきって信じ込むことで人をだますような人物像、虚を演じる原因の誰かが心の中にいるような人物像を、(ストーカーのようになってしまいましたが)参考にしました。

・SF要素は電導植物で、『11人いる!』(萩尾望都)に出てくる電導ヅタではないけれど、電気を通す導線になるような植物で、針金のように自在に曲げられるような植物の想定です。

・参考文献:乃南アサ『結婚詐欺師』、川上弘美『ニシノユキヒコの恋と冒険』

文字数:321

課題提出者一覧