梗 概
破壊の地平
ひろ子(29)は両親の希望通りに生まれた県の大学を出て生まれた県の会社に就職し、仕事も言われたとおりにこなしてきたが気づけば家と会社の往復。自分の人生は果たしてこれでいいのだろうかと、近頃思うところがある。そこで、心身に癒しの効果があるらしい、地表近くで+とーのエネルギーが打ち消し合っているというゼロ磁場の小高い山に一人で登ってみようと思い立つ。
登る手前に赤い帽子と前掛けをしている大きいお地蔵さんが目に入る。顔がひらがなの「ち」の文字になっていて少し不気味に思うも手を合わせて心を落ち着けて登り始める。石段の傾斜が急で予想よりも大変だったが頂上に着く。
ゼロ磁場の確認にスマートフォンの方位磁石を表示してみたが、針は回るわけでなく正常に方角を示している。
拍子抜けするも、次の瞬間、スマートフォンは手から滑り落ち、リュックサックも外れていた。風景に目を戻すと何だか遠くまで見えすぎている。
先ほどまでいた山に立っているらしいものの、巨大化していた。
わけがわからず下りて進んでみる。10階以上あるマンションよりも自分は大きくなっている。自覚がなかったが前に進むたびに家々を踏みつぶしていた。
足がもつれて転ぶと、電車が引っかかっていた。近くに駅があったようで脱輪して電車が横転している。電車を持ち上げると中に人がいて、動かなくなっている。ひろ子は自分のせいなのかと驚いた後、座り込む。
サイレンを鳴らしながら警察や救急、消防車が来る。マイクで何か言っているが音が割れて聞き取れない。
ひろ子は話してみる、「気づいたら大きくなっていただけで。山に登ってみただけなんです。普段しないようなことしてみただけなんです」。でも聞こえているのか分からない。どこに行けばいいのか分からない。とりあえずその場でジャンプしてみる。飛べるわけでもない。砂埃が上がって、振動に車両が横転する。
まとわりつくようにヘリコプターが飛んでくる。耳元で響くプロペラの音がやかましくて手で払うと墜落してしまう。
「いるだけで迷惑なのかな。真面目に働いてきただけなのに。攻撃したりしないのに、そんなつもりもないのに」悲しくなってひろ子は独り言つ。
なるべく足元に気をつけながら市街ではなく、遠くに行こうと歩く。山か海かどこか拓けたここではない場所へ。
慎重に歩いても何か壊してしまう。そのつもりもないのに恐れられてしまう。それならもう、できるだけ早く遠くに行こうと、ひろ子は走ることにする。
疲れて足を止めると、腕に鈍い痛みを感じる。
振り向くと足元を自衛隊が囲んでいて戦車が狙いを定めていた。
「大丈夫ですか」と中年女性に声をかけられて目を覚ます。
スタートしてすぐにつまずいて転んだらしく、散歩に来た人が起こしてくれたらしい。
立ち上がるとすぐそばにお地蔵さんがあり、その顔には二つの目があって最初に見た顔とは違っていた。
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内容に関するアピール
今回採用した最も使い古されたアイデアはゴジラ、ウルトラマン、ふしぎの国のアリスにも登場する「巨大化」、「夢オチ」です。巨大化は小高い山に登れるくらいの軽登山用の服を着たまま大きくなってしまった想定です。おおそらく内面に溜めこんだ何かのせいで、大きくなって町を壊しながら歩く疲れたOLの画はシュールで新奇性があるのではないかと思いました。
サイズ感はいろいろ迷いましたがゴジラの50mくらいのサイズ感で採用しました。
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