梗 概
幽霊たちの歩く街
少子高齢化の進行で墓守が減っていたり墓地が減っていたりする中で、新たな選択肢と謳われて、自立歩行型の骨壺、二足歩行の人型アンドロイドロボットに骨壺をセットする新しい弔いの形式が生まれる。
墓石に骨壺を納めるように胴体の内側に骨壺をセットする。顔の部分は液晶にあらかじめ撮っておいた写真や映像などからAIで作成した希望する時期の故人の顔が映し出される。声は事前にアプリに入れておいたスマートフォンやビデオ通話などでの音声記録の蓄積またはこの製品を作成するための録音により口癖、イントネーション、話す言葉が再現される。仕草や体型・記憶はオプションになるがカメラで人を認識して家族、知り合いとデータを蓄積することができる。
家族等がいつまでも忘れない疑似家族として生き続けることができること、思い出を補完するものとして、家族等を近くで見守ることができる、というのがこの商品の触れ込みである。
生前に自分でお金をかけておくか家族等の希望でこの形式は選択される。
故人ロボット自身が働くことで維持費用または共同の供養塔に入る費用を稼ぐことができるシステム(共同供養塔のフロント、清掃、簡易調理をはじめとした仕事)が構築されている。
制作にはパーソナルな情報を提供する必要と、器としてのロボットの制作・維持費用、墓守のような帰属者の存在が必要となってくる。
夕子は、ロボットの墓に入ることを意識してからの方が父はどこか幸せそうだったと感じた。アプリに音声を残すために声を吹き込む、そのための朗読をする。古典の一節を読み上げる。声の再現の精度を上げるために毎日少しずつ。
形態は変わっても故人を悼む墓なので穏やかな生前の姿のみを映し出す。些細なことで腹を立てていた父が、朗らかな顔で写真や動画の撮影を受ける。
労働のために当初はバスで送迎されていたロボットも、徐々に街の仕事は故人のロボットに置き替わり、徒歩で勤務先に出ることもあり、街で故人のロボットとすれ違うことも多くなった。
父が亡くなってから1年目が終わり、夕子は墓守権限で父の骨壺をロボットから出すことを決める。穏やかで機嫌の良い日もあったが、やはりどこか父らしくなくて、少し寂しくなるかもしれなくても記憶で思い出すだけで十分だと思ったためだった。
文字数:948
内容に関するアピール
私の物書きとしての仮の武器は意外性のあるモチーフと、不器用な人間が少しでも生きやすくなるようなヒントを描きたいという意欲があるところだと考える。
自分は読む前後で発見があるような小説が読んでいて楽しいと思うため、上記を武器と設定した。
第一回梗概は、「ダチョウだった少女」をモチーフに書いた。気づきとしては、思考が過剰になると妄想とさえ気づけなくなることを書こうとした。
第二回課題は「加速する青いリボン」をモチーフに書き、気づきとしては、小さくても行動が大事ということを書こうとした。
今回は「動くお墓ロボが溢れた街」をモチーフとして書きたいと思ったが、欠点もその人らしさみたいな気づきを書くにとどまった。(着想は街を歩いていた人のケーキの箱が骨箱に見え、二足歩行で可動するお墓があったらと着想を得たのだが、調べたら弔いロボットは存在していた。)
文字数:375