ちょっとした勇気
幼いころ、私が魔法少女ミラクルピピイに夢中だったのを一番温かく見守ってくれたのは大好きなオバチャンでした。ミラクルピピイは泣いている人がいたら元気の呪文を唱えてたちまち勇気づけるような女の子でしたが、私は呪文を唱える時のステッキよりも衣装の方が好きでした。フリフリやリボンのたくさんついたドレス。なかでも頭に付けている大きな青色のおリボンが好きでした。
そんな私のことを大事に思ってくれたオバチャンは私がもうすっかりピピイを卒業した小学6年生のころに青い魔法のおリボンを私に贈ってくれました。
正確にはリボンと魔法の薬です。製薬会社に勤めていたオバチャンは産学協同で発明した試作品なのと言って、当時産学共同の意味がよく分からなかった私に、その魔法のアイテムをくれました。
青いおリボンは軽いけど厚みのある丈夫な素材でできていて、裏のクリップで簡単に留められるので今も大事に使っています。オバチャンは青いおリボンは脳に特殊な指令を出して、30秒の動きを3秒で行うことができると教えてくれました。ただし、使うには条件が二つあり、それは、使う人が一度頭に付けて外し、専用の充電器を裏の真ん中にあるプラグに挿して2年間充電する必要があることと、身体が急激な加速に耐えるために2年前に薬を1錠服用する必要があることで、薬を飲んでから充電すると使える頃に真ん中が光るのでわかりやすいとも教えてくれました。
私は幼いころ、喘息で動くとすぐゼエゼエするので閉じこもりがちでした。オバチャンがくれる薬で少しずつ良くなっていったので、私は魔法の薬もすぐに信じて飲みました。
オバチャンは「勇気を出していろんなことに挑戦してね」と2錠分の薬をくれたので、私は魔法のおリボンを2回使えたことになります。
先に謝っておきます。大したことには使えていません。
一度目に使ったのは、高校1年生の時です。私はピリカちゃんというフリフリの洋服を着こなすモデルのファンになり、いつかお茶会などのイベントに参加したいと思っていましたが、金額も高く、予約開始から瞬時に売り切れてしまうのを何年も眺めていました。そんな時にピリカちゃんとコラボしているワンピースとお茶会のチケットがお誕生日記念で数量限定で格安で買えるチャンスを知りました。どうしても買いたいと思い、リボンを付け、念じ、予約開始時刻に合わせて高速で指を動かし、チケットを購入することができました。ピリカちゃんとは記念撮影の時にしか近づけず、かわいい、くらいしか言えませんでしたが、うれしかったです。
2回目に使ったのも、ピリカちゃん関係です、ごめんなさい。その2年後、ピリカちゃんは映画デビューをして、その試写会で地元の会場に来てくれました。後ろの方の席で端だったのでピリカちゃんの顔は遠くで小さくしか見えず、私は間近で会えた時みたいに近くで顔を見たいと強く思いました。
私は、加速して映画館の後方から階段を降りて、マイクを持って話すピリカちゃんを演台の下の近くで眺めた後、階段を上って自分の席に戻りました。
ピリカちゃんにとっては1秒くらいだったと思います。席に戻ってから見たピリカちゃんは不思議そうな顔をしていました。
なんだ、こんなことに使ってと思うかもしれませんが、引っ込み思案だった私に、オバチャンのくれたおリボンは私に勇気をくれました。
ピピイが好きな私を認めてくれて、ピリカを好きな私に一歩を踏み出させてくれる勇気をくれてありがとう。
今はリボンはファッションアイテムとして使っています。大学生になった私はかわいいものがずっと好きなので洋服やさんでアルバイトをしています。
オバチャンが失踪してしまって、今年で7年になるから、母からお葬式をすると聞いて驚きました。でも、最後に会った時、このおリボンをもらった時に冗談で、次は透明になる薬を開発する、と笑っていたので、オバチャンは近くで見守ってくれているんじゃないかなと思ってこの手紙を書きました。
青いおリボンの話は二人の秘密です。
おリボンは大事にします。
文字数:1676
内容に関するアピール
実作を書くのに、どうやって書こうかと考えた末、アイデアをまとめようとする中で時間も限られてきたので、小説と呼べるのかわかりませんが、手紙形式にすることにしました。
過剰というテーマに対して、速さが加速するアイテムを出そうと思いました。
フレドリック・ブラウンの「タイムマシンのはかない幸福」という作品を読んで、速さが加速しても、大したことに使えない方がオチとして面白いかなと考えて、二つくらい考えた結果、今作になりました。
何よりも書けて良かったです。書いていて楽しかったです。
文字数:240