搭乗待ち

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梗 概

搭乗待ち

ブブはぬいぐるみのプレトリアとともに搭乗口前にあるフードコートで両親を待っていた。悪天候で飛行機が遅延し、それを待つ人々がターミナルビルに溢れかえっている。ソファやフードコートの椅子だけでは足りず、次第にそこらの壁や土産物屋の前にも乗客たちが座り込んでいた。

ターミナルビルに勤務するパタタはその間をぬって同僚のホーンと二人分のサンドウィッチを買って休憩室に戻った。二人は決して空腹ではないが暇つぶしにそれを食べようと思っていた。その間に再び館内アナウンスが流れる。

「お客様にご案内致します。本日の空港の発着はすべて欠航となります。繰り返しご案内致します……」

搭乗口と手荷物検査場から怒号が聞こえてきたが二人はその声を無視して休憩時間を過ごした。

 

ブブは空腹だったが財布をもっておらず、後から来た男に席を奪われフードコートで立ち往生していた。

その時、ブブの手をプレトリアが握った。そのままフードコートから彼を連れ出し見学デッキに行き二人は空を眺めた。

プレトリアは無言で夜空を指さした。


休憩室を出たパタタはターミナルビルの見回りに出た。見学デッキは夜間、施錠をしていたがなぜか開いていて、そこでブブとぬいぐるみを発見した。そして、そのままブブを待合室へ連れて行こうとした。パタタは少年にサンドウィッチを食べるかと誘った。しかし、その時ブブは自身の空腹感が消えていることに気づいた。空腹感がないことを伝えるとパタタはそれは良い傾向だと笑った。そしてブブはある質問をぶつけた。

「ねぇ、ブブは死んでるの?」

パタタは笑ってそうだと答えた。このターミナルは死の世界へ出発するための通過点で死を自覚した者から搭乗することが可能になっていると告げた。空腹感が無くなることは死へ向かう一つの兆候だった。ブブはプレトリアがそれを教えてくれたと言ったがぬいぐるみがパタタの前で動くことはなかった。パタタはブブが搭乗可能だと判断し、搭乗口へ案内した。ブブはパタタにたずねた。

「パタタは死んでるの?」


ブブはパタタに連れられてゲートを通過したが、大きなブザー音が鳴って係員に止められた。荷物をすべて捨てなければ搭乗できなかった。それはぬいぐるみのプレトリアを捨てることだった。プレトリアは動くから一緒に搭乗させてほしいとブブは頼んだがそれは不可能だった。荷物がごみとして処分されることを知ったブブはプレトリアをパタタに引き取るように頼んだ。

ブブを乗せた飛行機が離陸した。パタタはその様子を乗客の荷物を処分するホーンと一緒にみていた。パタタはホーンにたずねた。

「俺らもここから出発するのか」

「どうした、急に。死にたいのか。俺たちはここで永遠に働くんだぜ、ターミナルを出るってことは失職だ。死ぬよりましだろ」

 

パタタは手荷物検査場に並ぶ人々をぼんやりとみていた。この人々は今からみな死ぬんだ。それでは俺は一体なんなのだろうと彼は思った。ただ死んでいないことは生きていることなのだろうか。俺にはなんの荷物もない。今あるのはこのぬいぐるみだけだと思った。ぬいぐるみが彼の手を握った。手にはパタタの搭乗券があった。

文字数:1285

内容に関するアピール

舞台装置:ターミナル

役割と効果:人が生まれてから死へと向かう一生の過程で、「生と死」そのどちらでもない境目の部分の話を書いてみたいと思っていました。その舞台として空港のターミナルを設定しました。ターミナルには乗客や荷物を運ぶ施設としての役目があり、生と死が入れ替える境目の場所としてふさわしいと考えました。乗客はターミナルに常駐しませんが、そこで働く職員はそこにずっといる。そこを舞台に生と死どっちにもいくことのできない人々の話を考えています。

文字数:222

課題提出者一覧