梗 概
404 Not Found
『404 Not Found』の文字が管理画面に映っていた。彼の所持しているGPSからの反応はない。
ケア・エイジ404は失踪した、彼の担当している入居者の老人と同時に。
ケア・エイジは数十年前に年金制度が破たんした国が導入した補完制度で、生まれた新生児をケア・エイジに登録すると戸籍上の孤児となりケア・エイジ専門の施設に入れられる。そこで高齢者介護専門のプロのケア・ナースとなるように徹底的な英才教育を叩き込まれる。そのため、万が一、子どもができて育てられない場合でもケア・エイジに登録すれば何の罪にも問われなかった。寧ろ社会に貢献したような形になるため、怠惰な堕胎はなくなった。制度の開始当初、ケア・エイジに対する人権について問題となった。彼らに職業選択の自由はなくケア・ナースにしかなれない。しかし国民の3分の1が高齢者となっていること、そして生まれたときからその後の人生が決まっていることは皇族や歌舞伎など特別な世界では少なからず存在し続けることから、ケア・エイジに対して手厚い保護を施し一定水準以上の生活を保障することでその声をおさめることができた。
404は担当していた老人と電車で山に向かっていた。老人は施設に入る前に山登りが趣味だった。死ぬ前にもう一度山を登りたいというのが願いだった。404は外出の許可が出たと嘘をついて老人を連れ出していた。
「山登りもそうですが、多くのことはどのようなプロセスを辿っても結果は同じになるものです」
老人は久しぶりの登山で多弁になり、登山用のストックを慣れた様子で使い登っていった。
「死ぬまでにもう一度ここの景色をみたかったんです。ありがとうございます」
「いえいえ、疲れたら言ってくださいね。ゆっくりいきましょう」
「ありがとうございます、やはりケア・ナースさんは優しい。実は私も昔、子どもをケア・ナースに出させてもらったんですよ。元気ですかね、その子は。自分らしく生きてほしいですね」
―――自分らしく生きる。その言葉は404を刺激した。
彼は老人が足元に小さな円形の物体が点々と落としているのを発見した。
「何を落とされてるんですか」
「豆菓子です」
「かばんにしまっておきましょう。ぽろぽろ落ちてるじゃないですか」
「いいんです。あなたが帰りに迷わないようにですよ」
「気付いていたんですか」
「はい」
404は老人をこの山で捨てるつもりでいた。生まれながらにして人生のルートが決まっていた彼はいつしか自分たちをこの世界に押し込めたものたちを憎んでいた。
「私は……いや私たちは望まれない命だったのです。間違って生まれた人なのです。それなのにあなたたちは自分の世話のために……」
老人はストックで404を押した、一瞬のことだった。404は柵を掴もうとしたがわずかに届かなかった。
「どのようなプロセスを辿っても結果は同じになるものです。人はいずれ死ぬ。あなたも私も」
老人は豆菓子を頼りに山を下っていった。
文字数:1388
内容に関するアピール
エラーによって生まれた子どもによる物語です。
ケア・エイジ制度がなければ誕生しなかったかもしれない命が、その後の人生をケア・ナースという必然の生涯を引き受けるという条件のもとに生を受ける。彼らは生物学的・制度的には人であるが人生の選択の自由はない。社会でケア・ナースとしての役目を果たすためだけに存在している。そんなケア・エイジが自身の人生を獲得しようとする話です。
文字数:182