Footprints of Elephants

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梗 概

Footprints of Elephants

南国のある山中の集落が一夜にして雪で覆われちょっとした話題となった。

マヤの職業は災害時や工事現場で人が入っていけない状況で、遠隔地から機械を操作し代わりに作業をする会社のエンジニアだった。トランスミット・リリーフという機械を派遣し、そこにエンジニア自身が遠隔地から操作して作業をおこなった。仕事を終えて帰宅した彼女のPCに一報の電子手紙が届いていた。差出人は恋人ルドルフからだった。電子手紙を開いてみる。

マヤへ。

ニュースみたかな。初めてこの国で雪が降ったんだ。異常気象とはいえ、地元に雪が降るなんて。僕の国では「象の足跡のように」という表現があるんだ。象が通ると平らな大地に一瞬で大きな窪みができるだろ、それまで普通だったところに一瞬で変化が起きる。まさに象の足跡だよ。

三週間のバカンスを利用しルドルフは実家に帰省していた。文面からでも彼の興奮が伝わってきた。彼女は優しい返事をして眠った。その後、返事がないことを気にはしなかった、数年ぶりの帰省を邪魔しては悪いと思ったからだった。

二度目に話題になったのはそれから数日後だった。

南国の暑さが急激に戻り、雪崩が起きた。集落は丸ごとずり落ちた雪に飲み込まれ全くみえなかった。ニュースで映し出された光景は象の足跡のような大きな窪みにみえた。雪崩のあと、マヤはルドルフと連絡が取れなくなった。

翌日電子手紙がきた。ルドルフからだった。手紙には雪崩について一言も触れず、ただ単に彼の日常が綴られているだけだった。すぐに返信したが反応はなかった。彼女は少なくとも雪崩の下でルドルフは生きていると確信した。現地自治体から会社に要請があり、マヤはエンジニアとして参加することになった。しかしトランスミット・リリーフでも熱で溶けかけた雪では足場が思うように組めず作業は思うように進まなかった。結局のところ雪が溶けるまで待たなければならなかった。もはや生存者はいないだろうというのが世間の大方の見方だった。

ルドルフからは毎日のように電子手紙がきた。休暇を楽しんでいた。

会社からの撤退命令がでた。雪を掻けば掻くほど、ルドルフが失われていく気がした。雪が溶けなければルドルフが死んだことにはならない。そんな気がいつしか彼女のなかから出てきていた。ちょうどルドルフのバカンスが終わるはずだった頃、彼からの電子手紙はこなくなった。

夏の終わりに雪が溶けた。たくさんの遺体が出てきたが誰かわからないほど腐敗していた。

***  *** ***

休暇を終え帰国したルドルフは電子手紙の話をしたが、マヤのPCが壊れていてメールは一通もみていなかったことがわかった。

「でもちゃんと送れてたけどね。それより考えてたんだけど、結婚しよう」ルドルフは指輪を差し出した。

「急すぎるよ」戸惑いながらマヤは指輪を受け取った。

「象の足跡みたいでしょ」

「なにそれ?」

「一瞬で世界が変わることをそういうんだ」

文字数:1196

内容に関するアピール

本作では「シュレーディンガーの猫」を元にルドルフが死んでいる世界と生きている世界が

同時に存在していて、その世界が接してしまうとどうなるのだろうということを出発点にして書きました。

雪が溶けるまでルドルフの生死ははっきりしない。マヤがルドルフが生きていると信じて行っている雪掻きは

もしかしたら彼の死の証明になるかもしれない。

実作では、その状況下で可能性の高い「ルドルフの死」と、マヤが感じている「ルドルフの生」を対比しながら

「信じること」について書きたいと思っています。

タイトルにしました「Footprints of Elephants」という慣用句は造語です。

見えている日常を一変させる場面にインパクトが欲しくてこのような表現を考えました。

文字数:317

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