作品プラン
漂流する?否!
久しぶりに故郷の街へ行く。皆と別れて通りに出た途端、潮の香りに息が詰まった。
この街はもう随分と変わってしまって記憶の中にしかないはずなのに、匂いが残っていた。しまった!呼吸をしてはいけない。もうここには戻らないと決めたのだ。1秒でも早く抜け出さねば、決意が揺らいでしまう。駅までの最短距離を駆け抜ける。どんなに打ち消してもこうしてこの街は私に深く染み込んでいるのに…。
高校を卒業した時にも、結婚した時にも、この街にはもう戻らないと思った。だが、これが3度目の正直。(正直なのか?)父が築いた一つの家族という痕跡を根こそぎ引き剥がし、老いた母を背負って私は船に乗る。この選択が正しいとしても正しくないとしても、今は耳を塞ぎ、私は走らねばならないのだ。
漂流する?否!
文字数:331