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「密室の文学」の可能性/ポエムコアの「コア」とは何か?/異なる無限の物語

「密室の文学」の可能性

文学の出発点は自己対話とその結果である自慰行為として始まる。程度の差こそあれ、中二病や黒歴史に代表される自我の肥大化によって溢れ出す衝動が筆を執らせ、その想像力が言葉で紡ぎ出され、文章の塊として出現する。そこで想定される「読者」とはまず作家自身であり、自らの快楽を無視して書かれる文章は文学とは呼べない。そして文学の出発点における根源的な例として、普遍性を獲得してしまったのがヘンリー・ダーガー『非現実の王国で』になる。

本作は「非現実の王国」が舞台だが、実際には彼の「現実」と密接な関係性を持っている。例えば作品内における女児が持つ男性器、自己投影した分裂的なキャラ、コラージュやトレースの技法、戦争というモチーフなどは、彼の「現実」における精神薄弱児収容施設での経験、幼児・児童事件への哀れみ、掃除夫としての極貧生活、カトリック信仰などと地続きのものであり、自己投影、内面世界での戦争といった解釈と容易に結び付けることができる。

しかし重要なのはこの物語が「非現実」と「現実」の両義性を持つが故に、彼自身の中では埋葬されるべきものであり、「読まれないこと」を想定して書くことを見事に達成してしまったことだ。本作は事後的に発掘されたのであり、「読者」は事後的に発生したのであり、その逆ではない。そしてその事実が誰にも読み切れない量や内面の吐露に転化され、結果として本作に圧倒的な強度を与えている。

これを拡張すると、現代において「自分以外の読者を想定しない文学作品は可能か」という問いが生まれる。高度に消費/情報社会が発達した現代において、「読まれないこと」を想定して文章を書くことは不可能に近い。もちろん競争原理の中で「読まれること」を前提とした文学に宿る強度はある。しかし一方で「読まれないこと」を前提とした「密室の文学」に宿る強度の可能性について、本作は証明しているのである。

ポエムコアの「コア」とは何か?

ポエムコア (poem core) とは、 アニメ、お笑い、ゲーム ラジオ といった サブカルチャーの影響を元に、 演劇的であり 音楽的である 詩の 朗読形態 です。

 ニコニコ大百科「単語記事: ポエムコア」より

http://dic.nicovideo.jp/a/%E3%83%9D%E3%82%A8%E3%83%A0%E3%82%B3%E3%82%A2

何を言っているのか良く分からないが、これがポエムコアの定義らしい。また創始者BOOLは「ナイフのような自意識」、「スケベ心」、「闇」をポエムコアの三大要素として挙げている。これを岡崎体育の盆地テクノのような1人1ジャンルものと捉えるべきなのか、Alcestのブラックゲイズのように後継者が生まれることを狙っているジャンルとして捉えるべきなのかは不明だ (実際には既に後継者が生まれている)。

ここでポエムコアという言葉をあえて「詩の中核」と的外れに誤読しつつ、その成立要件を検討してみる。ポエムコアは音を被り、時にバーチャルを被る。前者は詞先的な制作手法であり、音楽的規則を重視しない。また後者では例えばBOOLとして「闇ヲ走ル」ブリーフランナーが、VTuberのミソシタに変貌し、「ミッドナイト・ファイティングブリーフ」を朗読する。これらに加えて演劇的な振る舞いと内容の混沌が「詩の中核」になり、その全体性を形成する。

ここで文学の拡張というテーマに立ち戻るならば、ポエムコアのミクストメディア的な手法が文学を拡張していると言える。それは拡張した全体性がその複雑さを保ったまま有機的に結び付いている状態、つまり拡張したものがそのまま「コア」になってしまうような全体性のことでもある。もちろんそのバランスを少しでも間違えれば文学の縮小に陥る危険性はある。それでも地下二階から響き渡るポエムコアの朗読は、「文学コア」として全裸で木馬に乗り込みながら戦い続けている。

異なる無限の物語

「人狼ジャッジメント」は文学である。まず基本的な情報を確認しておくと、「人狼ジャッジメント」とは「人狼ゲーム」をオンラインで遊ぶためのアプリであり、基本的にはLineのようなチャット形式で対話が進んでいく。そもそも「人狼ゲーム」は「それぞれのプレイヤーが持つ情報量に差があり、プレイヤー同士の決定によって結末が変わるマルチエンディングストーリー」と捉えることが可能だ。「人狼ジャッジメント」ではそれに加えてプレイヤーがキャラという仮面を被り、役職を演じながらプレイするところが通常の「人狼ゲーム」と異なり、その特徴が文学性を強めている。

「人狼ジャッジメント」では20以上のキャラと50以上の役職が用意されている。ここで特筆すべきは各キャラに公式の設定が存在しないこと、役職の数が豊富なこと、ゲームの物語が確定していないことの3点だ。このようなゲームの設計の仕方により、プレイヤーのキャラに対する感情移入が促進され、役職の組み合わせとプレイヤー同士の決定によって、異なる無限の物語が生成される。さらに「人狼ゲーム」の性質上、自分以外の目線にも憑依して考えることが要求され、その騙し合いにはミステリ要素が含まれる。

ここで「人狼ジャッジメント」におけるプレイヤーは文学を生成する要因の一つであると同時に、物語を消費する側でもある。「人狼ジャッジメント」がYouTubeを中心としたゲーム実況と相性が良いのは、異なる無限の物語が生成されるという性質に加え、創造すると同時に消費するという構造がゲーム実況と類似していることに理由がある。他にも「人狼ジャッジメント」には観戦という機能があり、観戦者としてリアルタイムに生成される物語を読むことが可能であり、プレイヤーはログの保存機能によって生成された物語を再読することも可能だ。このような「人狼ジャッジメント」の構造と機能は文学を拡張していると言えるだろう。

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