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tofubeatsと平成の『感性』的な聴覚

2011年のtofubeatsの2つの創作に注目したい。アイドルグループtengal6の曲「プチャヘンザ!」のプロデュースと、動画HARD-OFF BEATSだ。

tengal6は、アダルトグッズのTENGAが協賛企業となったアイドルプロジェクトで生まれた清純派ラップアイドルグループだった。ラップアイドルではあるが、2011年10月に発表されたこの曲はハウス・ミュージックとなっていて、音像の軽さが特徴となっている。この軽さは、平成終盤日本で起こっている閉塞感に対するヒントとして、現在でも鳴り続けていると筆者は考える。

J-POPおよびアイドルの文脈で、当時のメインストリームだったのはPerfumeである。中田ヤスタカにプロデュースされ、ライゾマティクスによる最先端のメディアアートをまとった彼女たちの音像は、分厚いエレクトロ~EDMとなっていた。オートチューンのかかった声を含めて、矩形状に区切られた時間に強く圧縮され構成された電子音は全体として、感情の喚起とダンスの欲望の喚起を行うことに徹底していた。もし音楽編集ソフトを所有していたら、同時期の2011年11月に発表されたPerfumeの「Spice」とtengal6の「プチャヘンザ!」の波形とスペクトログラムを簡単に見比べてほしい。Perfumeは海苔のようなスクエアで、tengal6は踊っているような画像になる。

現在から見返した際に、Perfumeによる「Spice」が喚起する『感情』は、その後も解消されないどころか強まってきている社会的な閉塞感を予感する暗いファンタジーのように見える。社会的な閉塞感というのは、情報技術によって人々の分断が増長してきたことが目に見えるようになってきたり、特に集団的な感情というのがコントロールを失うことが繰り返し見えるようになったことを指す。一方で、tengal6による「プチャヘンザ!」が提示しているのは(編集された)『感性』と言う事ができる。広く取られた空間で、声やシンセサイザーのビブラート、スクラッチなどの細かい動きがよく見えて、それぞれに注意を向けることができる。この『感情』と『感性』の対比は、同時代のクラブミュージックではEDMとMinimalの対比に対応しているといえるだろう。EDMは感傷的なメロディーと可聴音の領域全体でコントロールされた音圧によって人々の感情を一体にするような効果・効能を担った点で、『感情』的なダンスをもたらしていた。Minimal (当時ではClickと呼ばれていたようなジャンル。代表的なレーベルはPerlonなど。)では、低い重心の4つ打ちは鳴りつつも高い周波数領域では広く余白が取られており、反復の中にふいに提示される特徴的な音色それ自体に注意を向けたり、変化を時間をかけて眺めるような『感性』的なダンスをもたらしていた。このような『感性』的な聴取が、「プチャヘンザ!」にはJ-POP・アイドルの楽曲として編集されていたといえる。

 

続いて、Youtubeにアップされている「HARD-OFF BEATS」に注目してみよう。これはリサイクルショップの「ハードオフ」に売られている中古レコード(基本的には数百円)を予算(基本的に少ない)を決めて購入し、そこで購入した音源のみをサンプリングして楽曲を制作する試みだ。tofubeatsはここでニューミュージックやJ-POPに出会う。当時のメインストリームのヒットチャートから言えば見向きをされていないアーバンサウンドやディスコ等が安い、つまりゴミとされていると言っていい。「神はいた」と彼は言い、サンプルを抜く。時代の価値観として、止まらない経済的な衰退を続ける日本で音楽を創作するには、ゴミの中で神と出会うことが必要だったのだろう。ただしそのゴミにはもちろん傾向があった。バブル期の日本で作られたポップスは、当時のメインストリームの価値観ではダサいものとされていたが、制作にお金はかけることが出来ていたため、抜くための部分に寄って見ていくと煌めいている。創作の社会的な背景としては、洋楽ロックにおけるオルタナティブとしてローファイが現れた状況と重ねることができる。また、クラブミュージックの歴史として、安い電子リズム楽器の入手性とそこに音楽的な発見をしたことからデトロイトテクノやシカゴハウスが生まれて行ったこととも重ねられる。最先端のテクノロジーを用いるPerfumeとの比較に戻れば、現在の日本においてテクノロジーの進歩史観は時代の閉塞感と密接にかかわっている。情報技術によって便利だったり楽しい消費社会が作られていることと、分断されていく感覚が積み重なっていくことは、同じ現象の両義的な面である。特に日本の商業の方面では、情報技術における夢のような文言が新聞を賑わすものの、この国で良いものが生み出されるような実感を見いだせないという虚無感が大きい。ここにおいて、tofubeatsによる多様な『感性』的パーツが軽い音像で編集・再構築された音楽が、これからを照らしてくれている数少ない創作物であるように見えるのだ。

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