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第一回 平成インタビュー

 

本日は平成さんをゲストに迎え、お話を聞いていきたいと思います。平成さん、よろしくお願いします。

 

平成(以下H):よろしくお願いします。

 

まず、あと数か月で平成さんは現在から過去へとなるわけですが、どのような気持ちでしょうか。

 

H:30年も頑張ったんだ、って感じですかね。気づいたら、こんなに時間がたってたのか、ていうか。やっぱ、最初の10年くらいの思い出が強烈なんですよね。みんなにとってもそうだと思うけど、やっぱり90年代ってのは強烈で、なんてったって僕が生まれた年に冷戦が終わってますからね(笑)
それから、ベルリンの壁が崩れて、ソ連が無くなって、やっと平和になるのかと思ったら全然逆。湾岸戦争に軍隊送らなかったらバッシング受けるわ、世界中で内戦が起きるわで、ほんとストレスでしたわ。ほら、ちょうどその時、うちもバブルがはじけて大変だったでしょ? 神経擦り減りましたよね。パパの時代の戦争から半世紀でもあったしね。というか、パパの時代長すぎでしょ(笑)長いがゆえに、歴史としてあるストーリを描けるわけだけど、僕の場合はどうなるんだろうなって興味はありますね。例えば、パパの場合は、戦争して、負けて、復興して、ぐんぐん成長して、世界二位まで上り詰めた。それなりに変化を伴った物語を描けるわけだけど、僕はどうやって語られるんだろうな。

 

この国には、日本について自覚的・無自覚的に様々に語ってきた批評さんがいます。彼が積極的に語っていくんじゃないでしょうか。

 

H:うーん、まあ、たしかに最近、批評さんは僕がまだ現役にもかかわらず、すでにいろんなことを言っているわけだけど、その多くは、本当は僕とか日本には興味ないんじゃないかな。今、たまたま、僕が終わって関心を集めているからいろんな本を出してるだけで。だって、彼、僕が生まれたころから結構同じようなこと言ってるよ?
「大きな物語の衰退」とか、「共通前提の消滅」とか、そこからくる「島宇宙化」とかさ。要するに、人々が違う方向を向いていて、バラバラになっている。もっと開き直って言えば、参照すべき全体がないから何を信じてもいいってこと。ポスト・トゥルースって最近言われているけど、これは90年代の議論から導かれる現象だよね。そして、信じているものが違う者同士で争い合う。「決断主義」とか言われたこともあったね。
もちろん、パパの時代にも生きている人にとって異なる現実が、様々にあったと思う。でも、僕の時代で面白いのは、「大きな物語」の存在を知っている人と全く知らない人がいるってことなんじゃないかな。例えば、パパの時代では、戦争に負けて呆然とした人、泣いた人もいれば喜んだ人もいた。もう国にはだまされないぞ、と怒った人もいた。それぞれに別の反応を示しているのだけど、そこに「大きな物語」があったことは知っていたと思う。戦争を知らない人でも、成長神話とか、パパの崩御とかで「大きな物語」がなんだかんだ言って、仮初であるにしても機能していたと思うんだ。
でも、僕の時代には本当に「大きな物語」を知らない人たちがいる。そりゃそうだよね。批評さんの言ってることが本当なら、社会が「島宇宙化」した後に生まれた人たちは「大きな物語」が機能した時代に生きてきてないのだから。危機に直面した時に、たまに現れてくるけどね。東日本大震災のときの「絆」とか。それでも、東日本と西日本では違う感じ方だと思う。国全体を巻き込んで、というのはなかなか難しい状況にある。
「大きな物語」に馴染みのない人がいる一方で、戦争経験者がまだ生きてる時代でもある。そして、戦争経験者ほど「大きな物語」に影響を受けてないけど、その残余を経験している世代もいる。これはなかなか特殊なんじゃないかな。おそらく、「大きな物語」を基準にして語れる最後の時代でもある。だから、僕を語ることはほんとうに面倒くさいと思うけど、それなりに価値があるものだとも思う。批評さんには、こういうことを考えて僕を語ってほしいかな。

 

こういうことというのは・・・

 

H:つまり、価値観の多様化の前に、生きてきた時代というか、世界観が違っているということかな。価値観の選択以前の、拠って立つ基盤がそもそも違う。しかもこれが100年単位での差ではなく、20年、30年という社会の現役選手の間で生じている。この外部というか、他者というか、そういうものとの緊張関係を保ったまま議論を構築しないと、批評さんは公共性を持ちえないでしょうね。まあ、少し前まで、それこそ90年代はこの辺の議論が盛んだったように思うんだけど、それも今ではないね。むしろ、21世紀になってからは、どんどん閉じた議論になって、批評さんは、実存に即した「私の」歴史を語っていた。

 

平成さんの時代は、インターネットの普及もあってコンテンツの量が著しく増えた時代でもあります。その中でドラマ、マンガ、アニメ、ライトノベルなど様々なものが批評さんの仕事の対象となりました。この点については、どう見ていますか。

 

H:僕の時代は、消費の地位が上がった時代でもありました。特に90年代には、「大きな物語」の空位を消費によって埋めようとか、消費による主体化を模索したわけです。「大きな物語」がなくなった今、消費社会というゲームに「あえて」乗っかることで生き抜こうと。だけど、それは楽観的過ぎた。オウム真理教の衝撃とか色々あったしさ。
あと、その分、フラットな消費行動が増えたってのはありますよね。僕の時代には、新しく郊外というものが発見された。90年代に郊外都市文化が花開いた、というと大袈裟かもしれないけれど、郊外を描いた作品が生まれてきた。同時に、郊外特有の問題を批評さんが取り上げるようにもなったわけですよ。「何物でもない私」とか、援交少女とか、ファスト風土化とか。どちらかと言えば、郊外が否定的な価値観で論じられることが多かった。ゼロ年代にはむしろ郊外の価値を再評価する動きがあったりもしたけど、やはりそれは90年代のパラダイムの上にあったと思うな。
いずれにせよ、批評さんは大衆消費社会を思想的に論じてきた。消費と主体や実存の関係を多く語ってきた。その問題系は今も根強く残っているし、ゼロ年代にはコンテンツ消費を論者の実存に寄せた語りが多く生み出された。
結局、僕の時代では、批評さんは過去に囚われたまま、うまくそこから抜け出すことができなかったのかもしれないね。僕の誕生とともに表に上がってきた問題をうまく消費しきれないまま、最終的には現在をとりあえず肯定したまま議論を進めていく。それでは公共性を持たないし、未来へと開かれていきはしない。批評さんは未来への意識が薄れてしまったのかな。

 

たしかに批評さんは、ゼロ年代には現在に鎮座したまま、実存を語ることが多くなったわけですが、その一方でテン年代には第三次AIブームの影響で、未来を意識した言説が増えてきたように感じます。

 

H:うーん、それはどうなのかな。たしかにAIの実用化やシンギュラリティは未来について語っているように思うけど、それは議論に使われる用語が目新しいだけで、そこで議論されている問題自体は新しくないんじゃないかな。たとえば、生活にテクノロジーやシステムを実装することで人間がだめになっても社会を支えるみたいな話は、90年代の消費による主体化と形式が全く同じだと思わない? シンギュラリティについていえば、20世紀末のノストラダムスの大予言と変わらなくない? 議論の核は、シンギュラリティが実際に来るか来ないかに関わらず、それを信じていかに備えるかという問題になっている。これも批評さんが言ってたことだけど、シンギュラリティは宗教の問題だよね。
そう考えると、全然未来に開かれてはいなくて、過去の問題系、それも恐らくは90年代の問題系を反復しているよね。平成の批評は未来への回路を失った。ひとまずはこう言えるんじゃないかな。これは近年の批評にも言えて、3.11以後はデモに行くことが批評さんの仕事になった側面があるでしょ。理論が無くなったと言ってもいい。理論が実践の可能性を踏まえて、未来への回路を開いていくはずなのに、理論を失えば現在を虚しく消費するだけでしょう。だからこそ、シンギュラリティじゃないけど、宗教の問題がせり出してくるんじゃないかな。それもオウムのトラウマがあって一般的な宗教には頼れないから、古き良き日本みたいなスピリチュアルな日本像を狂信的に支持する人も現れる。

 

残念ながら、ここでお別れの時間が来てしまいました。今週はここまでです。次回は、今週の見取り図をもとに過去から抜け出す隘路はどこにあったのか、話を聞いていきたいと思います。平成さん、ひとまずありがとうございました。

文字数:3575

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