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脱・高橋源一郎→2018年則巻アラレ30歳へ

2018年FIFAワールドカップ ロシア「日本代表SAMURAI BLUE」がベスト16進出を決めた、2018年7月2日にベルギー戦を控え、日本中のファンが固唾を呑み見守っている。

そんな日本代表選手の一人、長友佑都(31歳)は、セネガル代表戦、両チームの全選手の中で最長となる走行距離11,088メートル走り、スプリント数53回と全選手中1位、一番多く走りチームを支え続けている。(※1)

そんな彼はリオネル・メッシ( 31歳)を目指す為に、参考としてあるトレーニングを取り入れ2016年『Going!Sports&News』(日本テレビ)に取り上げられた。
その取り上げられたトレーニングとは、「ゆる体操」と呼ばれる脱力トレーニングだ。

「ゆる体操」の本当の目的は、各部位の緊張状態を解くように動かすことで、「思い通りに動く身体」を作ることにあったのです。(※2)

長友佑都は、緊張状態(力み)を解き脱力する事で、思い通りに動く体を得てパフォーマンスを向上させているのだ。

 

1.脱力=しなやかであり、自身のパフォーマンスを引き出すこと。

脱力は、サッカーに限らずあらゆる事(スポーツ/格闘技/演奏/映画etc)において重要な要素として認知されている。

脱力が重要な要素として登場している漫画として、「少年チャンピオン」連載の「グラップラー刃牙・シリーズ」は顕著だ、世界最強の人間である範馬勇次郎を父に持つ主人公刃牙が様々な格闘家と対峙する。

最新シリーズの「刃牙道」では、脱力を極めた人物としてクローン技術で蘇った宮本武蔵との対決が描かれている事や、空手家である愚地克巳の当てない打撃(脱力の要素を含み、拳の先からソニックブームを発生させ相手に当てる)等、超えし者の描写には脱力がキーワードになっている。

 

2.高橋源一郎の得た脱力。

そんな脱力と高橋源一郎は非常に深く関わっていると言える。

エッセイ集である『ぼくがしまうま語をしゃべった頃』から引用しよう。

 1960年代の終わり頃、1970年の2月から8月まで、ぼくは東京拘置所に拘留されていました(逮捕されたのは前年の11月でしたが、留置所→少年鑑別所→留置場、とたらい廻しにされたのです)。その事自体は大したこととはないのですが、拘置所でぼくは重い「失語症」にかかってしまいました。(『ぼくがしまうま語をしゃべった頃』1985 高橋源一郎  p32)

留置所では失語症になる事は、それまで培った言語力を一旦失った、つまり半ば強制的な脱力の会得に至ったと言える。

その後、1980年の『すばらしい日本の戦争』まで、肉体労働でおよそ10年間、高橋源一郎は脱力を磨いた。

その脱力により、近代文学のような定義のある文学を超え、ポストモダン文学で力を発揮しているのは自明である。

 

3.脱定義と入るポルノ、脱とポルノの文字が並ぶと、一定の人は何かを思わずには居られない。

高橋源一郎のテクストには、性的描写を含んだ二次元の世界の住人(有名人、漫画のキャラ)が高頻度で登場し、住人たち世界の定義を超えていく。

あのお茶の間でおっちょこちょいを演じているサザエさんですら。

うっとりと自らの裸身に見惚れるサザエさん。

「ああ。こうやって見てみると、とても子供を産んだ身体とは思えない。淡いピ ンク色の乳頭、それからよくいう言い方でいうと『ガラスのように滑らかな」お腹、これもよくいう言い方だけど『きゅっと締まった』ウェスト。男たちが欲望を感じるのも無理はないわね。(『ペンギン村に陽は落ちて』2010 高橋源一郎  p99)

このような性的描写を二次元の世界の住人達に持たせる事で、脳内で彼らが瑞々しく再生される。それぞれの世界の定義から解放され、皆一様に力むのをやめたように自由に振る舞う。

高橋源一郎がキャラクターに性的な命、生命ならぬ「性命」を与える事で、彼らは我々の脳内を自由に動き回るだけでなく、それぞれの脳内で成長ししていく。

成長に思いを馳せ、エッセイからの抜粋をしよう。

アラレ様。幼児へと退行していった現実の(というか虚構のというか?)あなたとは別に、わたしの夢想の中でもう一人の虚構の(というか、虚構の反対だから現実か、ん??) あなたは少しずつ成長しつづけ、現在では胸に奇怪な魔を秘めた「高校生アラレちゃん」へと変身しております。(『僕がシマウマ語をしゃべった頃』1985 高橋源一郎  p245)

今、高橋源一郎の脳内に居る則巻アラレは、どんな成長をしているのだろうか?気になる所である。

 

4.人は、あまりにひどい時にも、脱力する。

「性命」はキャラクターが定義を超え自由に動き出す事とともに、読者に対してある効果を与える。

「刃牙シリーズ」の連載雑誌は「週刊少年チャンピオン」であるのだが、唯一「少年チャンピオン」に連載出来る内容では無い事から「ヤングチャンピオン」に掲載されたエピソードがある。

それは「刃牙特別編SAGA」刃牙とその彼女のセックス描写を一巻分のボリュームで、魂を感じる気迫で描いている。作者本人から「性命」を与えられた二人は、闘いと思える程の、肉体と肉体のぶつかり合いのセックス描写を展開する。格闘漫画と思い手に取った読者は、格闘漫画で無い事に驚き、戦いのようなセックス描写に混乱し、思わず脱力してしまう。

この胸の思いは止められないの~あたしたち~♪この胸の奥で爆発しそうな感情は~もしかしたら~愛よりも強い感情なのかも~♪
(『恋する原発』2011 高橋源一郎  p189)

と、ブラックマヨネーズのニキビ痕が多い方に似ているグンジ、ハリセンボンの箕輪はるかに似ている、ヒライ、五十五歳特技フェラチオのヨシコさんの三人が歌うシーンは、壮大なミュージカルのようなシチュエーションで披露されるひどい歌詞とのギャップに思わず脱力せずには居られないが、『恋する原発』のおれはこう言っている。

カッコいいぞ、あんたたち。グンジ、ヒライ、ヨシコさん、あんたたち、クイーンの、伝説のウェンブリーコンサートよりも、魂がこもってる……。
(『恋する原発』2011 高橋源一郎  p189)

読者は、キャラクターの「生命」に当てられ、あまりのひどさに脱力を体験し、そこに魂を目の当たりにするのだ。

 

5.脱VS力み

実のところ、おれたちは、追い詰められていた。すっかり行き詰まっていた。
十年以上も前に「AV業界は終わりだよ」といわれていた。あんたら、時代から完全に取り残されている、と。そんなもの、誰もみねよ、と。
でも、なんとか今日まで、細々と食いつないで来た。とにかく、おれたちが生きている間だけでも持ってくれればいい、と思っていた。
後は野となれ、山と慣れだ。
だが、気が付いた時には崖っぷちだったそこから落ちるのは時間の問題だった
(中略)
もうすぐやって来るに違いない。無文字社会が。
(『恋する原発』2011 高橋源一郎  p75~p76)

高橋源一郎は脱力によって様々な定義を超えてきたが、上記のように無文字社会の崖っぷちは必ず来るだろう、その時脱力は何が出来るのだろうか?

「刃牙シリーズ」中国大擂台賽編の最終試合には、脱力VS力みとの対峙が行われる。

“脱力の象徴”力みを捨て去る脱力の果てに得た中国武術の秘技「消力(シャオリー)」の使い手郭海皇VS”力みの象徴”最強生物範馬勇次郎の二人は凄まじい戦いを繰り広げる。

範馬勇次郎はこう言う

「闘争とは力の解放だ、力みなくして開放のカタルシスはありえねェ」(※3)

そして衝撃の勝敗が決する、郭海皇が試合中突然の老衰を迎え終わるのだ。

脱力の象徴は死んだ…

嗚呼、無文字社会の到来。

 

6.脱・脱力

老衰の郭海皇が控え室に運ばれる、突如として起き上がり。

「武術の勝ち…」(※4)

彼は、武の勝利を口にする。脱力の象徴は仮死状態になる事で、力みをやり過ごしたのだ。

仮死状態でやり過ごす事、それは戦いの勝敗に置いて負けない最強の戦法である。

では、無文字社会が到来した時、やり過ごす為仮死とは何だろうか?

仮死の意味から一部を抜粋する。

外観では生活現象を認められず,生きている徴候を客観的に確認できないが実際にはまだ生存している状態をいう。(※5)

それは、高橋源一郎の頭の中にいる則巻アラレのような存在ではないだろうか?

外観からは生活現象が確認出来ない=脳内情報は外部には分からない。

実際にはまだ生存している=脳内情報がある限り、生存していると言える。

今や成長した、則巻アラレに脱力を託そう、幸いにも彼女はアンドロイドであり、AIが搭載されている、高橋源一郎のテクストを、AIに全て搭載する事で、則巻アラレの選択する言葉のキーワード一つ一つが、予測変換が、更なる定義越そして、無文字社会の崖っぷちをヒョイっと超えていくだろう。

参考

(※1)

サカノワ 文:サカノワ編集グループ
【W杯 セネガル戦】長友が走行距離、スプリント「2冠」達成。不変の”誰にも負けない走り”

http://sakanowa.jp/topics/6544

引用

(※2)

書評「日本人が世界一になるためのサッカーゆるトレーニング55」(松井 浩,高岡 英夫)-「フィジカルが弱い」という状態はどうすれば改善されるのか(2)- | nishi19 breaking news

書評「日本人が世界一になるためのサッカーゆるトレーニング55」(松井 浩,高岡 英夫)-「フィジカルが弱い」という状態はどうすれば改善されるのか(2)-

(※3)

バキ31巻 232話

(※4)

バキ31巻 237話

(※5)

コトバンク

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説-仮死

https://kotobank.jp/word/仮死-44226

文字数:3887

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