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蓮沼執太『メロディーズ』論:こわれかけた部屋を持ち歩く

 

 

 

手元に落として 部屋でじっと聞くより

ポケットに入れて 両耳にはめて

電車に乗って 目的地で降りて

階段登って改札抜けて 歩調はリズムにぴったり合いたいよ

 

丸の内中央口から皇居方面 赤黄緑の車をインストール

道路を走る車のエンジン 犬の鳴く声

曲の隙だらけに挟まって ひっかかって

穴だらけの部屋の家具の配置のリズムに合わせて ステップ踏みたいよ

 

こわれるまえの風景から 曲になるまえの音だけすくって アンビエントを遊んでいる

黄色い声の子どもたちが はしゃぎ回るまえでこわい音すくって 自由をまもっている

 

月にきらめき 色のない七つの光

サイレン響いて 水が溢れて

他の人の紙散って カーテン揺れて

プラグがブツッと抜ける音がして メロディーは急ブレーキに変わるよ

 

走り去る消防車、救急車 耳に入った虫をパトロール

有限のメロディーがつくる四角形の中へ

声のひだだらけにからまって 胸高鳴って

この窓から見える子どものころの「それ」 夜の中へ遠ざかるきみ

 

こわれるまえの風景から 曲になるまえの音だけすくって アンビエントを遊んでいる

黄色い声の子どもたちが はしゃぎ回るまえでこわい音すくって 自由をまもっている

 

ゆっくりと散歩道のショウウインドウ 名前と人気と価格がすべて

生きていないものに変わる速さで近づいて

 

こわれるまえの風景から 曲になるまえの音だけすくって アンビエントを遊んでいる

黄色い声の子どもたちが はしゃぎ回るまえでこわい音すくって 自由をまもっている

 

こわれたあとの風景から 曲にならなかった音だけすくって 部屋の模様を変えている

声の黄色い子どもだったころ 暗闇で音を拾い集めて メロディーの部屋を作ってる

何回もつくっている 何回も遊んでいる

 

参考資料

オリヴァー・サックス『音楽嗜好症−脳神経科医と音楽に憑かれた人々』、大田直子訳、早川書房、2010年

文字数:765

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