課題は以下の通りです。「最高にサスペンスフルだと思う映像作品を一つ取り上げ、その作品に見合った、最高にサスペンスフルな批評を書いて下さい」。講評においては、みなさんが書かれる文章の形式や文体をとくに問題にしたいと思います。読者が最後の一行まで手に汗にぎり、はらはらどきどきしながら文章を追い、さらには、これまで自明だと思われた通念が揺さぶられて戦慄する……そういう強烈なテキストを目指してください。

趣旨について説明します。まず、現状として、こういうタイプの批評は減っていると思われます。いわゆる「情報過多時代」に一般的に求められるのは、さくっと明晰に論述対象の特徴を整理して、それをできるだけストレスレスに効率よく示してくれるテキストでしょう。読書体験においてサスペンスを再構成しようとする文章なんて、うざいし面倒くさい、と受け取られる可能性はかつてより高まっているにちがいありません。しかし、まさに「整理」しえないということ、そのような宙吊り体験を眼目にした作品の場合、「整理」型の批評はその核心の手前で役目を終えてしまうこともあるでしょう。

以前は、ある種の映像体験を言葉によって再構成しようとする試みが、ひるがえって言葉や思考そのものの可能性を押し広げると期待されていました。哲学者のドゥルーズが『シネマ』で、「思考に運動を導入すること」の重要性を説き、蓮實重彦はその「エクリチュール」(これも使われなくなった言葉ですが…)において、映像の運動性の模倣を試み、映像における「宙吊り」の等価物を文章において作りだそうとしました。

いま、彼らと同じことをしてもうまくいくとはかぎりません(し、アナクロな雰囲気が出まくるでしょう)。また、ジャンルとしてのサスペンス映画は、まさに昭和──冷戦時代の闇と抑圧を糧に洗練をみた形式です。ネットで何もかもが可視化されてしまったかのような錯覚の蔓延する今日とは断絶があるのかもしれません。たとえば授業などでサスペンス映画の名作『鳥』を見せても、鳥が出てくる前に飽きて沈没してしまう学生が続出する昨今です……。いま「サスペンスフルな批評」を書くためには、かつてと違うなんらかの工夫や、加減が必要でしょう。かくいう私にも確固とした答えがあるわけではありません。みなさんの果敢な実験に触れられるのを楽しみにしています。

課題でいう「映像作品」は、狭義の「映画」でなくともよく、アニメーション、ミュージッククリップ等でも可です。もちろんジャンルとしての「サスペンス」や「スリラー」でなくともよいです。古典をとりあげても結構ですが、その場合は今日の視点から書くこと。あと、ちょっとイレギュラーですが、「食べ物」も可にします(食の概念を覆すような、論述対象としてふさわしいサスペンスフルな一皿をご存知ならば)。映像作品は、すべて、DVDレンタルやネット配信等で現在もアクセスできる作品を選んでください。

課題提出者一覧