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友人M

「べつに失敗したくて失敗するわけじゃないの。でもなんか、勘違いしてたり、思い込みがはげしかったりするのかな?あと、まわりがみえなくなっちゃうのかな。集中しすぎて。そうするとなんか、悪気が無いのに失礼なことをいってしまったりして、あぜんとされたりするわけ。あとはなんだろう、ルールにしたがって書類を作るのとか苦手。なんかいつも失敗しちゃうの。すごくかなしい。でも、なおらないの!」と、友人のMは言う。「失敗の効用?なにそれ。そんなのないよ。かなしいだけだもん。そんなのさー、失敗したときのきもちがなまなましくなくなってから、やっといえることだよね!なんかやなかんじ!たいへんだもん!!いつも!!」と言う。早速失礼な発言をしている気がするが、まあ、それはさておき。

最近、といってももう1年ぐらい前のことらしいが、彼女は海外旅行先で大きなしくじりをしたらしい。「なんか、けっこう出かけるのすきなのね。旅行するのもすきなの。ひとりでいくのがすき。その土地に接続するかんじにわくわくするの。だれかといっしょだと、そのひとに接続しちゃうから、ひとりでいくの。それでね、去年の秋にひさしぶりにひとりで海外にいったの。すごくその頃疲れてて、もういくのやめようかとおもってたんだけど、でもどうしてもみてみたいものがあったから、いくことにしたの」

「飛行機も宿もちゃんと前もって予約したの。ホテルは街の真ん中らへんのところにして、観光に便利なようにしたの。」

「飛行機に実際乗ってみたら、隣の席の人がなんだかこっちをみてくるわけ。視線をかんじるの。なのに話しかけてこないの!なんだったんだろうあれは。よくわかんなかったけどすごく疲れちゃったの。そもそもあんまり眠れてなかったのに、飛行機のなかでも気味が悪くて落ち着かなくて、すごく疲れちゃったの。でも乗ってればつくでしょ?ついたわけ。」

「飛行場からわりとおおきい駅まで電車で出て、タクシーに乗ってホテルまでいくつもりだったんだけど、たくさんのひとたちがわさわさあるいている様子をみてたら、なんだか電車をのりついでホテルまでいきたくなってきて、そうすることにしたの。」

「ホテルの最寄り駅から10分ぐらいあるいて、ついた!わけ。ぴんぽん!じゃなかったかも、ブザーだったかもしれないけど、ともかくホテルの入り口のチャイムを鳴らして中へいれてもらって、予約の名前をつたえたわけ。」

「そしたら、ない、っていわれたの。予約が。えええええ!?っておもって、だってぜったいそんなはずない!!っておもって。もういちどきいたんだけど、ない、って。そしたらホテルの人が、日本から持ってきた予約したときの紙をたしかめてくれてね、ああ、っていうわけ。」

「なにがああなのか、っていうと、住所ね、住所がちがったわけよ!(笑)同名の、べつの場所にあるホテルを予約してたのわたし。しかも、中心地からかなりはずれたところのなわけ!しかも、帰りの飛行機がかなり朝早い便で、わたし、日本に帰れるのか!?ってかんじになっちゃって。旅行いちにちめにして。ほんとなんで、勘違いしちゃったのか、って、それはたぶんわたしだから、なんだけど!(笑)だからいつもの、かなしみがつみかさなっておしよせてくるかんじがしてね!辛くて。ほんといまは笑ってるけど、そのときは顔面蒼白、っていうか、脳内蒼白みたいなかんじになってね!そもそも疲れてたから、もうこれ以上なにかに対応するのはむり、ってかんじてたところに、これか!うわわわ!ってなって。で、そのホテルをでたところで、一瞬気をうしなったの。なにもそこまで動転しなくてもいいとおもうんだけど、なんでだろう、一瞬記憶が飛んでるの。気づいたら、道に倒れてて、目をあけたら数人のひとにかこまれてて。」

「そのひとたちはみんな、とおりすがりのひとたちだったの。でもすごく親切にしてくれて。倒れたままのわたしのからだを道の端っこのほうにはこんでくれて、荷物もみてくれて、脈をとってくれたり、持病とか最近の体調をきいてくれたり。警察のひとも呼んできてくれた。」

「そのひとに事情を説明して、いっしょに隣のホテルまでついてきてもらったの。そもそもその街はいつも観光客であふれているところで、空き部屋はみつかりにくいと思うよ、っていわれつつも。」

「やっぱり隣のホテルは埋まっていて、だめだった。けど、マネージャーさんがこれまたすごく親切にしてくれて、別のホテルに電話をしてくれて、ポーターさんも付けてくれて、荷物をがらがらはこんでもらいながら、そこまで連れていってもらって。」

「そしたら、そこもやっぱり埋まってて。でも、系列のほかのホテルを紹介してくれて、またポーターさんといっしょに歩いて行って、チェックインも手伝ってもらって、ホテルの部屋までついてきてもらって、今日はぐっすり眠って、明日ぼくに電話をしてね!って言ってもらって、ポーターさんとお別れして、寝たの。」

「ほんとすごく親切にしてもらった。なんか意味がわからないぐらいに。嬉しかった。すごく綺麗な街だったしね!みたいものもみられたし。紹介してもらったホテルは、目的の場所から徒歩10分ぐらいの場所だったの。ぐうぜん。びっくりした。素敵な旅だった。」

「ああでもだから、やっぱり失敗ってきらいじゃないのかもね、わたし。予測がつかないじゃない?失敗したあとのことって。予測できる失敗は、失敗じゃないよね。あの、はっ!しまった!っていうときの、自分がはだかになるかんじ?それは秘密のきもちよさなの。みえないヴェールが、さっと、はらわれるかんじ。世界が、はっきりくっきりみえるようにかんるかんじ。世界に、はっきりくっきりみられるようになるかんじ。それが、失敗の効用、ってやつなのかな?」と、Mは言った。

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